第34話 改竄

「えっと、知らないですね?」


「むーやっぱりそうかあ……」


まあ、知らなくて当然だ。

花音自身、知りたい筈だ。

昔の鈴音愛華のファンなら、誰でも。

でも……それは、誰もできていない、偉業。


ぴんぽーん


あわわんが来た。


「あわわんだ!あわわんにも聞こう!」


いや、確かにあわわんも昔の鈴音愛華のファンだけどね。

何も知らないよ。


「あわわん!かくかくしかじか!」


「え?」


あわわんは、きょとんとして。

俺の方を不思議そうに見て。


何度か見返して。


「え、本気ですか?」


???


「えっと……何も知りません」


散々勿体ぶったあと、そう告げた。

ノリが良いな。

何も知らないのは、最初から分かっているよ。


「……やっぱり、地道に調べる!」


モノアちゃんはそう言うと、パソコンへと向かった。

ネットにも情報ないですよ。


--


「……まじか」


モノアちゃんの結論。

それを聞いて。


俺は、思わずそう漏らした。


昔の鈴音愛華などいない。


それが、モノアちゃんの出した結論だった。


「はい……大変、申し上げにくいのですが」


モノアちゃんが、沈痛そうに告げる。


曰く。

鈴音愛華は、山籠もりの後、活動を始めた。

しかし、アイドルは、ファンが増えて軌道に乗るまでに、苦労する。


ではどうすれば良いか。

既に人気のあるアイドルとして、活動を始めれば良い。

過去の鈴音愛華は、今の鈴音愛華の為の、生贄。


その話自体は、俺も考えた事があった。

他にも同じ説を語っていた人がいた。

仮面をつけていたのも、メディアで歌を歌わなかったのも、CDを出さなかったのも……

全ては、入れ替わりやすくする為。


だからこそ。

山籠もり前の鈴音愛華は別人。

今はどこにいるのか、そういう話が出てくる。


「存在しません。残念ながら、データがそう示しているのです」


モノアちゃんを手伝ったアイ。

アイが、気遣う様な口調で告げる。


「過去の記録を探しましたが……山籠もり前の鈴音愛華に関するデータは、


「いや……」


「戸籍も探しました。出産記録も探しました。8年より以前に、鈴音愛華という存在は見つけられませんでした」


「……だが、俺は覚えているぞ?」


「だから申し上げました。記憶が改竄されていると」


いや、どうやって。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る