第33話 はいを選ばないと進まない

「モブさん、探しましょう」


「……何を?」


「鈴音愛華さんです!」


「……鈴音愛華なら、毎日テレビに出てるよね。今度のアルバムも、随分人気だし」


「違います!山籠もり前の鈴音愛華です!」


ああ。

しかし──


「確かに別人という説はあるが……」


「私、こう見えて、調べるの得意なんです!」


俺の自宅も、ネットの情報を繋ぎ合わせて突き止めたしね。


「俺は別に──」


「嘘だ!」


モノアちゃんが、叫ぶ。


「モブさんの心に中には、ずっと鈴音愛華がいるんです。私には、分かってます」


モノアちゃんは、俺を見ると、


「モブさんは、私を推して下さってましたし──」


今でも推してるよ?


「そして、同じくらい、花音さんを大切にされています」


「まあ、そうだね」


「でも!モブさんの心の中は、鈴音愛華が殆どを占めているんです!」


「……いや、流石にもう……」


……ない、よな?

よな?


「鈴音愛華を見つけないと、モブさんの心は救われません!だから、探しましょう!鈴音愛華を!」


「……そう……なのかな」


モノアちゃんは。

良く人を見ている。

本質をつく。


そこが……魅力だと思う。


「……正直、この家に逃げ込んで、衣食住を提供して貰って……申し訳なさで」


「いや、お兄さんから、モノアちゃんの生活費貰ってるからね?」


あの人はお金持ちだからね。


「申し訳なさで!」


「……分かった、じゃあ、一緒に探そうか」


これ、RPGの、はいを選ばないと進まない奴だ。


鈴音愛華。

単に芸風が変わっただけ、とも思えるし……それに……


去ったのなら、追いかけない。

それが、俺のスタイルだ。


そう言い聞かせていた。


--


「まずは、聞き取りです!」


「聞き取り?」


鈴音愛華の過去。

関係者?

たしか、仲の良いアイドルは数名いた筈だし。

中には、事業などをされていて、所在地が分かっている方もいるが。

コネはない。


「とにかく、近くの人に聞いてみるんです!」


「いや……それに何の意味が……?」


「あ、花音さんー!」


さっそく、モノアちゃんが、花音を呼び止める。

いや、近く過ぎだろ。

確かに、花音も昔の鈴音愛華を少しは知っているけれど。


「何でしょうか?」


花音が、可愛らしく微笑む。


「今、山籠もり前の鈴音愛華さんを調べているんです!何か知りませんか!」


「えっ」


花音が、ぽかん、とした顔をする。

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