第32話 逃亡

本人の口から聞いたのは、まあ予想通りだった。

20人くらいの同時接続で、リスナーの顔が見える配信を気に入っていたらしい。

それが30人に増えた時、一瞬戸惑ったけれど、そこはまあなんとかなったらしい。

が。


一気に200万人になると、リスナーの顔は見えないし……何より、怖い。

今までは分かっているリスナーばかりだったので、優しいコメント以外を投げる者はいなかった。

美しい歌を聞きに来た、200万人のリスナーは、一人一人の名前を呼ぼうとして、コメントを全部拾おうとして、努力するモノアちゃんを──ただただ、理解できず、ざわめいた。

それが、モノアちゃんの心に刺さり。


配信が怖くなった。

SNSが怖くなった。


今でも、SNSには大量のリプや反応が続く、のだとか。


配信がないのは寂しいけれど。

俺は、推しの方が大切だ。


活動を再開しろとは、口が裂けても言わない。


なお。

モノアちゃんが俺とお風呂に入ろうとして、花音が慌てたというほっこりエピソードがあった。

なんでも、家ではお兄さんが頭を洗っていたらしい。

一応、中学生になったら、自分で洗うように頑張るつもりらしい。

花音には、モノアちゃんが小学生だという事を伝え、花音は驚いていた。

モノアちゃんは、花音がお風呂に入れる事になった。


--


しばらくすると。

あわわんやアイがうちに訪れる様になった。

──アイは、最初俺のスマホを乗っ取った。

邪魔だから、ノーパソを用意した。


あわわんが、モノアちゃんに、配信のコツを伝える。

曰く、接続者数が増えたら、配信のやり方を変えなければならない。

曰く、コメントは全部は拾えないから、重要度を見極め拾う。

曰く、名前は呼ぶポイントを見極める、などなど。


アイが、攻撃的なコメントをブロックやミュートする手伝いを申し出る。

また、コメントへの反応し方をアドバイスする。


二人とも、モノアちゃんの為を思ってやっている。

だが……


モノアちゃんは、二人には言わないけれど。

俺は、花音は知っている。

そもそも、モノアちゃんは、リスナーが増えることを望んでいないのだと。


……転生するって手はあるけれど。

もっとも、一定数はバレるし、バレたらまた流入するので。

元のリスナーも失うし。

良い手段ではない。


そして──








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