第30話 飛躍
「アイ」
「はい?」
アイが、俺の方に顔を向ける。
まあ、向けなくても見えているのだとは思うけれど。
「一つ訂正しておこう。AIは、完ぺきではない。人になんでも勝てる訳ではない」
「……分かっています。まだまだ理解しなければならない事が多いです」
「誤解しないで欲しい。俺が言っているのは──どれだけ高度なAIでも、人には勝てないという事だ」
「!?」
アイが目を見開く。
続けて、お兄さんも怪訝な目をする。
「モノアちゃん」
「はい?」
「モノアちゃんの歌を、アイに聞かせてやって欲しい」
「……?」
モノアちゃんが、小首を傾げ、
「分かりました」
頷く。
人の、感情を揺さぶるエモい歌。
それは、決してAIには到達できない領域。
無論、アイがモノアちゃんの配信もしっかり解析済の可能性はあるけれど。
それでも、自分にはできない何かを、感じてくれるはず。
加えて。
お兄さんにも、余計な事を考えないよう、妹をもっと推してもらうよう、仕向ける。
これが、俺の作戦。
モノアちゃんの歌を改めて聞けば。
きっと、二人ともモノアちゃんを熱烈に推さざるを得ない。
すう
モノアちゃんが呼吸を整え。
優しいBGMが流れ。
「──」
流れる、歌。
……こ……これは……
配信で聞く歌とは、比べ物にならない。
神曲。
魔力が籠っているのかとすら錯覚する歌声。
「あ……あ……?」
アイが、涙を流す。
そんなプログラム、きっとないのではないだろうか。
にも関わらず、あふれ出る涙。
お兄さんも、膝をつく。
俺の目も、熱い物が流れ落ちる。
俺は理解した。
俺は甘かったのだ。
モノアちゃんは、配信に、良い機材を使っていると思っていた。
だが。
モノアちゃんの魅力を、殆ど伝えられていなかったのだ。
生で聞いて、初めてそれを理解した。
……お兄さんや。
世界征服とかおかしな事を考えている暇があったら、妹に機材提供しろや。
--
モノアちゃんに感動したあわわんが、ファンのみんなに布教した。
そして、次のモノアちゃんの配信は自分も見に行くと宣言。
アイが、自分のファンにモノアちゃんを熱く語った。
そのファンは、かなりの人気インフルエンサーであった。
推しの推しを広めるのは当然のこと。
多くの人が、次のモノアちゃんの配信に注目した。
花音が、仕事仲間、顧客に勧めた。
部長が、取引先や部下に勧めた。
そして、モノアちゃんの次の配信は。
前回の配信の同時接続者数が30人であったのに。
実に
200万人
もの同時接続者数を記録した。
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