第29話 ロゴパト

「アイは素晴らしい。人間のよう、いえ、人間を超えた。貴方は、本物の心を作ったのです。人工の心、本物のAIを」


「……だが」


「それに。もし貴方がAIを兵器として使用し、テロを企てたのであれば。貴方は犯罪者に仕立て上げられるでしょう。無能な者に、悪のレッテルを貼られ、見せしめに殺される。そんな未来は、誰も望みません」


まだだ。

まだ刺さない。


「……一理はあるな」


「世の中には、もっと有意義な事があります。お兄さんが手を汚す必要はありません」


推し活とか、推し活とか。


考え込むお兄さん。

モノアちゃんの、アイの、花音や、あわわんの顔に希望が芽生え――


「だが。やはり、この世は俺が引導を渡す。俺がやらなくても、すぐに他の人間が同じ事をするだろう。であれば、世紀の大悪人の名は、俺が甘受しよう」


やはり駄目か。


説得には、2種類がある。


1つは論理ロゴス

相手に理屈を呑ませて、説得するのだが──正直、悪手だ。

相手に言い任された感を生じさせる。


1つは感情パトス

これは強力だが……理屈に合わない事をさせても、誰も幸せにならない。


つまり。


論理で相手を揺さぶった上で。


「モノアちゃん」


「はい?」


モノアちゃんが、小首を傾げる。


「お願いがあります」


「……聞きます」


俺の真剣な声音に、モノアちゃんが頷く。


「お兄さんに、やめるように可愛くおねだりして下さい」


「……はい?」


モノアちゃんが、きょとんとする。

だが、俺を信じてくれたのだろう。


お兄さんの傍に歩み寄り、


「ねえ、お兄ちゃん。お願い、馬鹿な事はやめて?」


「む」


お兄さんが、後ずさる。


「ねえ、お兄ちゃん、お願い。アイちゃんも悲しむし、私の友達も……あわわんも、花音さんも、みんな悲しむと思うの。ねえ、お願い」


「ぬ……ぬ……」


お兄さんは、溜息をつくと、


「分かった。AIを使って復讐する事は撤回する」


「ありがとう!」


モノアちゃんが、お兄さんに抱きつく。


――無類のシスコン。

と、いうわけでもないだろう。


単純な話だ。

幾ら論理で説得されても、それを受け入れると、負けた事になる。


だが、他の理由がつけば?

軌道修正を受け入れるのも、敷居が下がる。


まあ、だいぶシスコンなのは確かだと思うが。


横目で見る。

花音も、ほっとしている。


だが。

これだけでは、まだ不安だ。


とどめを刺しておく。

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