第27話 法に沿った、妥当な行為

ううっ……えぐ……


すすり泣く声。


再び招待された、モノアちゃんのマンション。

苦々し気な顔の、お兄さん。

アイをあやすモノアちゃん。

アイが映るディスプレイを。


そして。

おなじみ、あわわんと花音。

2人とも、複雑な表情だ。


「……やってくれたね、モブさん。いや、田中貞雄」


お兄さんが恨めしい声を出す。


「君は、こっち側だと思っていたのだがな。いや、こっち側だからこそ、こんな真似ができるのか」


「人を悪者にする様な空気出さないで欲しいな」


酷い話だ。


「私は──私は、貞雄さんの味方です。取った手段も、正当な──法に沿った、妥当な行為です」


「今言い直したよね」


お兄さんが突っ込む。


俺が取った手段は、単純だ。


アイがAIだと公表した上で、動画サイトの投稿に対して規約違反である旨を指摘した。

アイは、自分がAIだと認め、投稿時のルールに従って、AI使用の設定を入れた。


そして。

再生されなくなった。


ここからが、お兄さんとアイの想定外だった箇所。

検索の設定を変えれば、普通に動画が引っかかるのだが。


そもそも。


面白くない。

映像がおかしいから気持ち悪い。

耳が変になる。

パクり。


そんな評価しかつなくなり。

そして……再生する事すら恥ずかしい、そんな空気が出てきた。


「何で……何でですか!何度解析しても、私の動画は完璧。実際、前の統計情報と、私の評価は一致していた!なのに何故突然!?」


まあ……ここは責任を持って、伝えるか。


「単純な話だ。何も変わっていない。アイ、君の動画は相変わらず面白いよ」


「!?」


アイが目を見開く。

お兄さんも絶句する。


「人はね……AIに負けたくないんだ」


感動するということは、相手を認めるという事。

相手に敬意を抱くという事。

相手が人間であれば──時には、鳥や動物、自然に対しても──敬意を抱く事ができる。

だが、AIに対して敬意を抱く──相手が自分と等しい、または自分が劣っていると認める、それは、人間にはハードルがあまりにも高い。


「それにね……人は、そこまで良い目も、耳もしていない」


価値なんて分からない人が殆どだ。

良い物だから評価される。

そんなの……嘘だって、昔からみんな実感している。


そんなの。

分かっていた。

昔。

昔、俺がまだ、人でいられた頃から。

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