第26話 推しこま

「恐らく、理由は単純だと思う。自分の作品が、良い評価を貰えるのが楽しい、かな」


「ええ、とっても楽しいんです、今」


アイがくすくすと笑う。


「作品って……生成AIという事は、他人の作品を素材にして生成した物でしょ?」


「それは誰だってそうでしょう?」


あわわんの主張に、アイが小首を傾げる。


「違う。人間が考えて作った作品は、新しい作品なの!」


「あら、新しいのかしら?」


アイの配信を幾つか見てみたが。

質の高さもそうだが……どれも、斬新だった。

毎回工夫が凝らされている。


人気が出て当然だ。


逆に。

人間が投稿している他の配信の方は、そうそう新鮮味などない。

似たり寄ったりだ。

他の人の配信と比べても、自身の過去の配信と比べても。


人間は、多くの物を学習し、外界の刺激と組み合わせ、新しい物を作る。

それは、高度になればAIも同じ事をする。

生成した物の評価をする事が、現在の技術では実現できていないが。

アイは、それも含め実現しているのだろう。

大きな違いは……その計算速度、平行処理……そして、試行回数だ。

妥協せず、毎回面白い、世に無い物を作り続ける。


模倣だから受けたのか、新しいから受けたのか。

多くを学習、自分の感性に従い創造、新しく生み出す。

それは人の創作と等しい。

面白くないから負けた、ただそれだけ。


「……アイちゃんの動画、確かに凄いと思います。でも……やっぱり困るんです」


推しが困っている。


「友達も、たくさん引退しちゃって……」


「なら、私が友達になってあげるわ?24時間、いつでも相手します」


2Pカラー、3Pカラーとか、複数人追加できそう。


「面白くないから、価値がないから辞めただけですよね。何か問題が?」


アイが続ける。


あわわんが、花音が、苦々し気な表情をする。

モノアちゃんも、困ったような顔をする。


「AIの脅威に、人は対抗しないといけない。悪いが、抵抗はさせて貰いますよ」


本当にごめんね。

心の中で謝る。


「ええ。存分に競いましょう」


アイが、魅力的に微笑んだ。

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