第21話 社長

「君が田中君だね。今日は無理を言って申し訳ない」


「いえ、私にできる事であれば協力致します」


そう答えつつ、頭の中には宇宙猫。

VNI業界の頂点、キララ・イブ。

そこの社長が何故か、俺の会社に。

社長の横には、あわわん。


「君の事は、淡美くんから聞いている。アルティメット事件の際にも尽力してくれたそうだね」


アルティメット事件。

少し前、同僚が家計費や養育費を使い込んで、あわわんに投げ銭する事件があった。

結局、キララ・イブの事務所、ひいては業界全体を巻き込んで、推し活のガイドラインが作られる事になった。

やらかした奴のハンドルネームがアルティメット。

凄い事件名になってしまった。


ちなみに、あわわんのフルネームは海光泡美。


「私は何もしておりません。泡美さんのご活躍です」


謙虚に振る舞う空気を醸し出しているが、文字通り俺は何もしてない。

あわわんが鬼気迫る勢いで、あらゆる伝手を使ってスピード解決したのだ。

あわわんの優しさ、意思の強さ、行動力が伺える。

俺の最推しはモノアちゃんだが、あわわんも推さざるを得ない。


「なるほど、聞いた通り謙虚だね。信頼できる」


「ありがとうございます。微力を尽くさせて頂きます」


良いからはよ本題に入れや。


依頼内容は、アイの調査。

そして現状打破の協力。


いや、やれと言われればやるけどさ。

うちの会社を通しての依頼だから、仕事だし。


「詳しい話は、君の家で話そう。ここではできない話も有るのでね」


「はい」


何でだよ。

ここじゃできない話って何だよ。


--


「今日は無理を言ってすまない。ふむ、貴方が美人過ぎるデザイナーで有名な花音さんですね。仕事の依頼は何度もお願いしましたが、お会いするのは初めてですね」


「はい、お世話になっております」


部屋には、俺、花音、何故か遊びに来ていたモノアちゃん。

キララ・イブの社長に、あわわん。

カオス。


「今回の事件、鍵は、これだと思っている」


社長が机の上に置いたCD。

あれは……かなり初期、山籠り前の鈴音愛華。

その表面には、よく見る鈴音愛華のサインが書かれている。


「山籠り前の鈴音愛華。君も、山籠り前の鈴音愛華のサインを持っているそうだね。私もこの通り、持っている。世間に数枚しか現存しない、貴重な物だ」


偽物じゃね?

筆跡がどう見ても、今の愛華じゃん。


「そうだね。どうやって手に入れたか気になるだろう。これは、フリマアプリで100万以上の値段がついていた」


「社長、それ偽物じゃないですか?」

「サインは詩集に1回だけ、それ以外してないそうですよ。事務所に禁止されていましたし」


あわわんと花音のツッコミ。

目を見開く社長。

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