第20話 オンリーワン

『電子の海からみんなに会いに来ました。みんな、アイに出会ってくれてありがとうございます。是非覚えて下さいね』


花音とのデート。

街中で流れる、アイのプロモーションビデオ。

溢れる、ファングッズ。


「増えましたね、アイのグッズ」


「ああ。あわわんも、グッズの売上が激減したってぼやいてたからな」


夜中の13時から1時間の配信だったのが。

14時から15時も配信──しかも、前の時間とは完全に別のジャンルで。

今は……24時間、1時間毎、毎回別の内容で、配信が続いている。

チャンネルは固定され、素顔?も公開された。

普通に可愛い。


どこの企業だと言いたくなるが……驚いたことに、個人だと主張している。

よほど大手の企業でなければ、24時間、異なる動画を配信し続けるなど、できない筈だが……


そしてその内容は……極めて面白い。

毎回、工夫を凝らした内容。

ゲーム配信、歌配信、やってみた動画、旅行動画……

そのどれもが、非常に高い質、高いオリジナリティを誇っていた。


まあ……他のVNIや配信者は、死屍累々。

どれだけ配信しても、人が来ない。

あわわんですら、同時接続数が半減。

これは、相当ましな状況らしい。


ちなみに、モノアちゃんの接続者数は変わらない。

減らないし、増えてない。

俺も、配信するなら絶対にリアタイするしな。


「卒業も、増えましたね」


「ああ」


卒業。

VNIを辞める事だ。

最大手であるキララ・イブですら、かなりの引退者を出している。

そして……花音も影響を受けている。

リアルのアイドル、VNI、双方から、受注のキャンセルが相次いでいるのだ。

開店休業状態。


……まあ、花嫁修業とやらで、今までできなかった事を色々試している。

そこまで辛くない、というよりは、状況に応じてできる事を楽しんでいる、そんな気がする。

やはり、花音は、人生のパートナーとして誇りに思う。


花音の仕事だけではない。

経済は全体的に冷え込んでいる。


エンターテイメントは言うまでもなく。

旅行や、グルメよりも、無料の動画を見る方が楽しい、そんな空気が流れている。

いや、食事や睡眠にすら影響が出て、体を壊す人も後を立たない。

通常であれば、動画配信サイトが対処すべきだが……規約を盾に、対処を拒否。

動画配信サイトも、営利企業だ。

ボロ儲けしているのだ、そうそう止めはしないだろう。


今日のデートは、公園の散策。

映画も作られない、テーマパークも休業が増えた。


公園のベンチに座ってアイの配信を観る人。

歩きながらアイの配信を観る人。

外に出てもアイから離れられない人も多数。


「凄いなあ、アイちゃん」


花音が呟く。


「そうも言ってられない人もいる、らしい」


アイが起こす社会問題。

その問題への対処。

何故か、俺はそれに巻き込まれつつあった。


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