第13話 あー困ったなぁ……

「……どなたか、お客さんが来たのでしょうか?」


翌日。

俺の家に『帰宅』した白江さんが、怪訝な顔をする。

まるで、自分の縄張りに、無礼な侵入者があったような、鋭い目。

モノアちゃん以外来てないよ。


「そうですね。金曜日にお客さんが来ました」


まさか、モノアちゃんが来たとか、言える訳がない。


白江さんは、少し考え込むと、


「あー困ったなぁ……」


おや?


「困ったなあ」


白江さんが、俺の方を意味有りげに見る。


「どうしました?」


流石に、友人が困っていて、声をかけない訳がない。


「実は、最近、実家まで帰るのがかなり大変でして……今日も、実家から会社まで行くのが、結構大変でした」


「1時間電車乗るのはちょっと大変ですよね」


「それで、そろそろ、引っ越しを考えていまして。ただ、住む場所を探すのも苦手でして、1人暮らしも寂しいので……」


なるほど。


「白江さんさえ良ければ、ルームシェアしますか?今お貸ししている部屋を、そのままお貸ししますよ」


本来であれば、女性が、男の家に来るというのはかなり警戒すべきだが。

何度も部屋を貸しているし、生活雑貨もかなり置いてあるから、流石に今更だろう。


「本当ですか!是非お願いします!」


白江さんも、すっかり慣れているのだろう。

特に抵抗はないようだ。


「ここが、白江さんが気に入るような場所かどうかは分からないけれど」


「そんな事ないです!住むには良い場所だと思います!保育園や幼稚園が近くに複数あり、待機児童もいないようです。児童館も近くにあり、子供が遊びやすい公園も複数あります。歩いていける距離に小児科や子供が行ける歯医者、耳鼻科、皮膚科、散髪屋もありますし。市役所の子育て支援も手厚いです!コンビニやスーパーも近いですし!」


「……そ、そうですか」


気に入ってもらったようだが、白江さんの基準はかなり独特なようだ。

医者が近いとか、コンビニやスーパーが近いとかは分かるけど。

明らかに縁がなさそうな判断基準が……ああ、将来結婚して子供が生まれた時とかの事を考えているのかな。

流石にルームシェアは解消すると思うけれど、慣れた土地で部屋を借りた方が楽には決まっている。


……いや、出ていくよね?

いくら友人とは言え、新婚夫婦にルームシェアする気ないよ?


「それで……来られたお客さんは、どんな方だったのでしょうか?」


「えっと……モノアちゃんのファンの女性で」


「……やはり女性」


どこに食いつくんだ。


「元ファンの1人が、別のVNIに入れ込んで、リアルを破綻させかけてないかと心配してきてね」


「……それが、なぜ田中さんのところに?」


「その元ファン、アルティメットって言うんだけど……俺のリアル知り合いで、会社の同僚なんだ。モノアちゃんも、そいつから聞いて存在を知ったんだよ」


「なるほど……」


「SNSで以前、アルティメットとの関係を呟いていたのを、聞いていたらしい」


「それで、田中さんが情報を持ってないか訪ねて来たのですね」


白江さんが頷く。


ぺらり


俺が、モノアちゃんが持ってきた資料を、テーブルに広げる。


「……見るからに、ただの冗談だと思いますが」


「ああ。俺もまず間違いなく、ただの悪質なジョークだと思う。でもまあ、一応部長経由で探りは入れてみた。何かあれば報告するように言われてるしな」


「はあ……そのファンの子も、随分変わった子ですね」


白江さんが、困惑したように言った。

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