第11話 あわわん

女の子は、目を半眼にすると、


「路線が人身事故で止まった、台風の影響を受けた、震度が幾つだった、浴衣の人が増えた……駄目ですよ、地域が特定できる情報をネット上で発信しては。住所を特定してくれと言っているようなものです」


「……何……だと……」


あれ……そんな馬鹿な……そんな日常の呟きで、住所の特定なんて不可能……だよね?


「ベランダから撮ったといって、花火の写真を上げておられましたね。あれは上がった場所と角度を計算すると、ほぼ正確に住所が割り出せます。それを何度も。ネットリテラシーを身につけるべきです」


「ぬぬ……」


「後は、電信柱やマンホールが写っている写真も上げていましたね。あれも良くないです」


返す言葉がない。


「以上が、私がここにいる理由です。理解できましたか」


「……なるほどな……」


……


あれ。


「住所が特定できた理由は分かった。君が俺の家に来た理由は何だ?」


「貴方に興味はありません。情報の提供をお願いしたいです。報酬は──」


ざら


女の子が出したもの。

それは、モノアちゃんの生写真──イラストを写真として印刷したもの──や、キーホルダー、バッジにTシャツ……見たことないものばかりだ。

かなり古参のファンなのだろう。


「話を聞こう」


報酬は魅力的だ。

要求にもよるが、悪い条件ではない。


「アルティメットさん。彼の情報が欲しいです」


「他人の個人情報を渡せる訳ないだろう。帰れ」


悪い条件だった。


ぱさり


女の子が、プリントアウトした紙を、テーブルに乗せる。

そこには……アルティメット──花形が高額の投げ銭を行っている写真だった。

5万に……10万!?

20万の時もある。

しかも、そのコメントが──


「……娘の学資保険から出しました?定期預金崩しちゃいました……?」


不穏なワードが並んでいる。

勿論、冗談だ。

それは分かるが。

そんなコメントと共に投げ銭されて、気分が良い訳がない。


……まさか。

いや、恐らく、そうだろう。


花形が新たに推しに選んだVNIは……モノアちゃんのファン。

すげー偶然。


「裏を取って欲しい、と言うことか?調べるまでもなく、嘘に決まってはいるが、念のためといったところか?」


こくり


女の子が頷く。

そういう事情なら……


「個人情報は当然渡せない。が、一応、探るだけは探ろう。アルティメットが入れ込んでいるアイドルの名は分かるのか?」


「海光淡美」


「ちょ」


俺は、VNIには詳しくない方だ。

だが、流石にあわわんは分かる。


キララ・イブ所属、CD売上ランキングトップの常連。

登録者数200万超、配信の同時接続数は50万を超える事も。


「……なるほど。名前を覚えて貰うなら、相応の手段が必要だな」


それが、大金の投げ銭と言う訳か。


目の前の女の子が、あわわん……?


「では、用事も済んだので」


あわわん?が立ち上がろうとしたその時。

スマホの着信音。


あわわん?がスマホを取り出し、


「涼ちゃん、こんものー!うん、今大丈夫だよ!うんうん、うん、それは──の設定が──に」


……!?

あわわん?の口から出てきたのは、モノアちゃんの声!?

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