第2話 反応を貰えるって嬉しいよね

……眠い。

結局、あの後、モノアちゃんのアーカイブを見まくって、3時間しか寝ていない。

配信頻度の低さと、配信時間の少なさから、既に3ヶ月前の動画まで見尽くした。


全て、面白かった。

あの面白さで、あの再生数なのは納得できない。

チャンネルの登録者数も、なぜあんなに少ないのか。


「寝不足のようだな。見たのか?」


「……ああ、見た。確かに、モノアちゃんというのは凄かった」


花形はにやりと笑うと、


「お前の分の仕事はもう終わらせておいた。今日はゆっくりと仕事をしても良いぞ」


……何……だと……


俺と花形では、仕事を片付ける速度が違う。

俺が1日かけて終わる作業量を、一瞬で終わらせたと言うのか。


……くそ。


「そうさせて貰うよ」


まあ、明日の分の作業をするか。


ふと気になって、尋ねる。


「モノアちゃんは、何であんなに再生数や登録者数が少ないんだ?あの面白さであれば、もっと多い筈だろ?」


「良い物が人気が出るとは限らないさ。人の目に止まらなければ、それまでだ。逆に……人気が有るからと言って、良いとは限らない」


花形が顔を向けた先。

机に置かれた雑誌の表紙。


アイドル、鈴音愛華。

日本のトップアイドル。

超大御所、星空芽衣の娘。

抜群のルックスに、性格の良さ、歌や演技の上手さ。

天が二物を与えまくったチート的存在。


……が、花形は好みではないらしい。

気持ちは分かる。

最近発表され、ランキングを席巻した新曲、オーバーライド。

あれより、昨日のモノアちゃんの歌の方が、遥かに心地良かった。


「思うに……モノアちゃんは伸ばす気はないのかも知れないな。少ない配信頻度に、少ない配信時間。流行りの動画といった工夫もしていないみたいだし」


「ふむ。田中はまだ、最近の投稿しか見ていないようだな。最初の頃の投稿を見てみろ」


「最初?」


一般的に考えて、活動を続ければ続けるほど、技術は進歩する。

機材も充実する。

そもそもの3Dモデルもリファインされるかも知れない。

であれば、最近の投稿から見た方が、より面白い筈だ。


まあ。

素直に聞いてみるか。


--


……何……だと……


花形の言いたい事は、良く分かった。

最初の頃は、ほぼ毎日配信。

配信時間も、2時間や3時間している。

ASMRに人気のゲーム配信、サソリを食べたり、メントスコーラ等の鉄板ネタも投稿している。

そして。


初期の配信を聞いて分かったのは……デビュー時点で、500人の登録者がいたらしい。

それが2年前。

そして今が……923人。

殆ど伸びていない……と思う。

他の、いまいち興味を惹かれないチャンネルでも4桁、5桁はざらなので、伸びてるとは言えないだろう。

同時接続数も、初期の頃は安定して3桁いたようだ。

昨日の配信は、ぎり2桁。

逆にかなり減っている。


徐々に配信頻度、時間が減ってきて。

最近では、内容も、歌枠と雑談のみ。


これは……ひょっとして……風前の灯なのでは。

VNIの寿命が極端に短く、新陳代謝が激しい事は知っていた。

なるほど……納得だ。

これ程の面白さでも、再生されない苦しみ。

その心理的負荷は、どれほどのものなのか。


[モノアちゃん……こんなに面白いのに、50再生も行かない。これがVNIの闇か……消えて欲しくない、続けて欲しい。もっと再生されて欲しい]


最新の動画を共有、コメントをつけて、SNSで呟く。


ぴろん



通知、天姫モノアが、俺の呟きをファボ。


……


これ本人か!?

え、呟いた直後に見つけるとか、可能なのか……?


アカウントを見てみる。

……凄く、本物っぽい。

とりあえず、フォローしておくか。


ぴろん


ん?


[ありがとー!見てくれたんだね!僕はずっと続けるよ!だから、これからもずっと応援してね!」


リプまで来た!?


[返信ありがとうございます。配信、楽しませて頂きました。これからも応援させて頂きます]


ぴろん


やはり一瞬でファボされる。

……あれ。

配信頻度のイメージから、かなり消極的な活動かと思ったけれど。

意外と活発……


[へへへ。ご新規さんが呟いているのを見ちゃった。凄く嬉しい!]


早速呟いている。

……というか、タイムラインを遡ると、相当な数の呟きをしている。

1日の呟きの数が、なんと20回を超えている。

日によっては、30回近く呟いている事もある。

SNSの利用はかなり活発らしい。


何というか……反応を貰えるというのは、かなり嬉しい。

これは……推すしかない。

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