第6話 距離を置く

岡本先輩からの僕への視線が向けられるようになり、そしてデートという言葉を先輩から聞くようになってしばらくすると、僕の海外駐在が決定した。


この頃、先輩からはますますデートに誘われるようになった。


ある時はメールで、またある時は口頭で


「デートに行きませんか?」と言われた。


その度に僕はデートといってもただの打ち合わせだろうと思い、少し引っかかりつつも了承した。


ただ、ある時、「こんなおばさんとのデートは嫌ですか?」と聞かれた。


僕は返答に困って濁した。


「いや、別に…。それより駐在したらなんですが、今までのように先輩からサポートいただけると嬉しいです」


「それは、もちろんです。本当は私も一緒に行けるといいんですけどね…」


「出張ではいらっしゃいますよね?」


「うーん、多分難しいかな。担当の配置換えがありそうで…」


「え?聞いてないんですけど!?」


「うん、まだ正式には決まってないからね。でもそうなると私は僕くんと仕事できなくなるの…。」


寂しそうな表情をする岡本さんに少し同情しつつも、僕は初めての駐在への楽しみの方が気持ちは上回っていた。


先輩は、やっぱり僕のこと好きなのかな。少なくとも嫌いではないんだろうけど…。でもさすがに40代子持ちはなあ…。



僕は依然として彼女はいなかったが、当時はストレスのせいで遊びまくっていた。


4人のアプリで出会った女性とデートをしていて、夜の生活は人生で1番激しかったと言っていい。


そして赴任前、僕には彼女もできた。


その彼女とは身体の相性の悪さからすぐに別れたのだが…。


とりあえず僕の先輩に対する意識はあまりなかった。


かと言って、先輩も積極的になれるかというとそうでもなかった。


子どもの受験関係で忙しかっただろうし、そうでなくても仕事はいつも誰よりも多く抱えていた。


そして僕が赴任すると先輩との連絡は完全に途絶えた。


案の定、配置換えが起きたのだ。


配置換えは何度か行われ、先輩と僕は全く違う仕事をすることになった。


物理的な距離から、そして精神的な距離からも僕は岡本先輩のことを気にすることはなくなった。


むしろ駐在先や休暇先でアフリカ女性やスペイン人女性との恋愛を楽しんだ。


僕は駐在中、様々な言われのない責任を押し付けられ、仕事へのやる気を失い、転職活動を始めた。


こうなってくるともはや先輩のことを考えることは皆無だった。


なんとか無事に転職先が決まると僕は日本に戻った。


配置換えのため先輩に直接会うこともなく、僕はかつて念願だった会社を退職した。

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