第5話 視線

岡本先輩との出張を終えてから、妙に先輩からの視線を感じるようなっていた。


出張を通して仲良くなったかと言われれば、まあ、そうなのかもしれないが、現地到着初日を除いて特に2人きりの時間もなければ、世間話をする時間も十分にあったわけではなかった。


しかし、視線はたしかに感じるようになっていた。


毎朝岡本さんは誰よりも早く出社していた。


僕が席に座る頃にはパソコンに向かってカタカタと作業をしていた。


「おはようございます」と声をかけると、


「おはようございます」と作業していた手を止めて、身体を僕に向けて、にっこりと挨拶をしてくれた。


同時に、なぜか下半身は視線が行くことに気づいた。


最初はたまたまだと思ったが、これが毎日続いた。


身体の向きを僕に向けると一度僕の下半身は目を向けて、挨拶をする…これがいつもの流れだった。


多い時は僕がトイレなどで離席して戻って来た時も、わざわざ手を止めて顔と視線をぼくの股間に向けていた。


僕は日常生活の中で時折女性の視線が僕の股間へ行くことを感じていたから特に驚きは感じていなかったが、先輩に毎日見られることは少し戸惑った。


僕の股間の膨らみ、そんなに気になるかな…と少し不安になり、ズボンを暗色に変更したり、新調することもあった。


先輩の視線は僕の下半身だけに向いていたわけではなかった。


隣同士で座っている時、会議で反対に座っている時なんかも僕の方は顔を向けて視線を送っていた。


これはなんだか経験したことがある。


小学生の時、僕に好きだと言ってくれた女子が毎日僕に視線を送っていた、あれと同じだ。でも、まさか先輩が…?


と僕はまだ先輩が僕に好意があることを疑っていた。


ある時、僕らは社外の救命訓練を一緒に受けることになった。


出張中に何かあった時に知っておいた方がいいと上司に言われたのだ。


その訓練では2人1組になってやる訓練もあり、僕は仰向けになって倒れたふりをした。


先輩は倒れた僕を助ける役だったのだが、仰向けになって説明を聞いている間、先輩の優しい眼差しが僕に向いていた。


また、僕の下半身にもよく目を向けていた。


その頃から僕は岡本さんに時折デートに誘われた。


デートといっても、ただ2人で会議するだけだったのだが…。


また、直接誘われることは最初のうちはなく、2人で会議しましょうと誘われたかと思えば、会議後には今日のデートありがとうございましたと言われるようになったのが始まりだった。


以来、デート=会議として誘われたのだ。


さらにある時、僕は資料を脚に置いたまま分からないことがあって先輩に質問をした。


その時先輩は僕の資料に手を伸ばし、ページをめくった。


ページをめくる度、先輩の手が僕の股間に当たった。


僕は普段から股間に小山ができる程度には大きめのサイズだ。


普段から股間に視線を向けているのだから、先輩はわざとやったのではないかと少し戸惑った。


こうして、僕は次第に岡本先輩との距離感に戸惑い出した。

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