第3話 噂

入社して半年が過ぎたからだっただろうか。


部内で若手会なる飲み会が企画された。


若手会は35歳未満又は3年以内に入社した新社員を対象とした飲み会だった。


僕の同期数名を含む十数人が参加した。


僕は酒はあまり飲まないが、チームワークや情報共有や収集のため飲み会には参加するようにしていた。


特に若手会は気の合う人が多く、数少ない話しやすい場だった。


本田さんはこの時不参加だった。


ワイワイとにぎやかな会だった。


しばらくお酒が入ったところで、同期の1人が僕に話しかけてきた。


「僕くんは岡本さんと仕事してるんだよね。いいなあー。岡本さん優しいし仕事できるから当たりだよね。私なんて佐々木だよ。ほんと辛い。」


するとある先輩が会話に入ってきた。


「あの人すごいよね。お子さんもいて、遠くに住んでるのに毎朝早くから出社して仕事してさ…。」


「そういえば、旦那さんの話とか聞かないけど何してるんですかね?」と同期が聞いた。


先輩は少し気まずそうな顔をしながら答えた。


「あー…。あの人旦那さんいないんだよ。若い時に歳下彼氏つくって妊娠したら逃げられたらしい。結婚までしたのかな、たしか。でもすぐ離婚したとかだったと思う。」


「え!?そうなんですか!?」


僕は同期と2人で大声で驚いた。


また、横にいた50代くらいで僕より半年前に入社した男の先輩が言った。


「あ、俺もそれ聞いたことある。なんか数年前一時期彼氏もいたらしいけどね。それもすぐ別れたらしい…」


僕は同期と目と口をまんまるにして目を合わせた。


先輩が再び口を開いた。


「そうそう、なんだか歳下が好きみたいだね」


また別の先輩が会話に入ってきた。


「私もそれ聞きました!以前女子会したことがあって、その時恋愛話になったんですけど、歳下好きだって!」


「女子会!?夜?週末とか?あの人夜は絶対飲み会来ないじゃん。お子さんのこともだけど、酒飲まないし」


「あ、夜です!お酒はたしかに飲んでなかったですが、なんだったかな。なんかの研修が何かの後で珍しく参加されてました!」


初めて知る情報ばかりで僕と同期は驚きの連続だった。


「僕くんなんて岡本さんの好みなんじゃないですか?」


と少しいじり気味で女の先輩に言われた。


帰り道、横にいた50代くらいの男の先輩に声をかけられた。


「岡本さんいいよねー。俺、ああいう人と付き合いたかったよ」


なぜだかしんみりと言われた。


ただ、僕もその人に共感した。


「性格もいいですけど、スタイルいいし、美人ですよね」と返した。


この時、僕はまさか岡本さんと寝るとは思ってもいなかった。

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