第2話 進展なき日々
入社してしばらく、僕は歳の近い先輩、本田さんと仲良くなることを目指していた。
もちろん、希望の仕事に就いたわけだから仕事を優先にはしていたが、本田さんと2人きりになる度に僕は本田さんに積極的に話しかけるようにしていた。
本田さんは僕よりも4歳年上で、背が高く、すらっとした細めの体型だった。
綺麗というよりもかわいいの方が似合うはにかんだ笑顔が素敵な人だった。
胸はなかったが、色白の透き通った肌がなんとも魅力的だった。
僕は背が低いので、横に並んで歩くと心なしか身長差を縮めるような体勢で歩いていたのは少し引っかかった。
とはいえ、本田さんは歳も近いこともあり、僕的には最も話しやすい人のはずだった。
本田さんは仕事周りの基本的なことを指導してくれた。
だから入社後しばらくは2人でいることもしばしばあった。
本田さんは普段は明るい人柄で、誰とでも仲良く話す女性だった。
が、なぜか僕と2人の時は静かで黙り込んでいた。
目はあまり合わず、何か僕と話をしようとする雰囲気すら感じなかった。
このギャップに僕は戸惑った。
受け身な僕は話すのが苦手。普段よく話す人が僕といる時だけぴたりと話を止めるあの時間は今でも苦手だ。
それでも僕は自分なりに頑張った。
「社会人になったら、どうやって友達つくるんですか…?最近学生時代の友達とも疎遠で…。」
「うーん、どうだろう。私はイベント行ったりするけど…。」
「どんなイベントですか?」
「音楽とか…。」
「へー、いいですね。どんな音楽ですか?」
「…色々かなー。」
普段よく話す人がこれほど話さなくなるのかと僕は本気で戸惑った。
また別の日には…
「本田先輩はなんでこの仕事選んだんですか?」
「海外とか関わりたかったからかなあ」
「そうなんですね…。僕もです!どこの国や地域が好きとかあるんですか?」
「アフリカかなあ」
と、まあ、こんな感じで話が全く続かなかった。
しかし岡本さんと話す時はペラペラと本田さんは楽しそうに話し、盛り上がっていた。
まだあまりお互い知らないからとはいえ、これほどの差があるのかとガッカリした。
2人の会話をただひたすら聞く方がむしろ楽しいくらいだった。
「岡本さんのお子さん、もうすぐ受験ですよね。そうすると家の方も忙しくなるんじゃないですか?私お仕事手伝えるので言ってくださいね。」
「ありがとうございます。そうなの、うちの子は勉強ができなくて〜…」
へー、岡本さんお子さんいらっしゃるのか。まあ、あの年齢なら当たり前か。
そんなことを思った記憶がある。
そんな会話の後、本当に岡本さんの一部の仕事を本田さんが引継ぎ、僕はそのお手伝いを任された。
僕は基本的な指導の他に、一分の仕事を本田さんと一緒に行うことで、ますます2人でいる時間は増えた。
しかし、僕たちの関係はなにが変わるわけでもなく、平行線をたどった。
ある時、僕は勇気を出して本田さんをランチに誘った。
いまだに仲良くなれていないものの、本田さんとも仕事をするのだからチームワークを良くした方がいい。
一切下心がなかったといえば、嘘になるが、仕事のことを考えての提案だった。
しかし、それはあっけなく拒否された。
「そうですね、いつか行きましょう!あ、他の方も誘います?岡本さんは普段お弁当だし別の人がいいですかね」
僕はこの発言に呆気をとられた。
あ、この人、僕のこと心底興味ないんだ。チームワークが悪いのも気にしないんだ。
僕の本田さんへの好意は一気に冷めた。
実はチームワークを高める必要性は僕なりに感じていた。
普段仕事以外の会話がないのはともかく、仕事中でもコミュニケーションが足りず、お互い勘違いばかりしてミスが多かった。
また、僕の意見や提案は全て却下され、僕と2人でやるようにと岡本さんに頼まれたにも関わらず、僕を除いて岡本さんに個人で相談して物事を決めていた。
だから僕は一部情報を知らされていないまま仕事を進めてしまい、ミスが増えるという状況にあった。
僕はこの問題を2人に伝えていた。
岡本さんは申し訳なさそうにしていたが、本田さんは気にしていなかった。
だからランチを断られた時は僕はついに嫌気がさして、本田さんとの仕事はあまり力を入れないことにした。
すると本田さんはそれに怒りを示すようになった。
僕くんさんが仕事しない、してもミスばかりと文句を言うようになったのだ。
見かねた岡本さんは僕と本田さんとの共同作業を止めるように指示した。
こうして僕は本田さんへの関心は完全に消え去り、仕事に専念するようになった。
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