第2話悪夢の登校

私が通学路を歩いて登校していると、左側の廃れた神社から通り抜けした芦谷波澄が飛び出し、合流した。

「おはよ〜魁華ぁ。ブレザー着てないけど、鞄になん?」

「飛び出してくんなし、はすちぃ。はよー、だよ。はすちぃこそ、ブレザー着てんの珍し〜じゃん!」

芦谷は人懐っこい笑顔で片手を挙げ振りながら挨拶してきた。

私は制服の移行期間でもブレザーを着ずに通学鞄に無造作に突っ込んでいる彼女にブレザーのことを指摘した。

「カズくんとヤろうってなってね。まあ、ツッコまないで魁華」

下手なウインクをしながら、詮索をしないように右手のひとさし指を唇に当てる芦谷だった。

朝から彼氏と交わろうという大胆に発言する彼女に、私は動揺しているのを隠そうと繕う。

「へぇ〜そんなに相性良いんだぁー。羨ましぃ〜!」

「うわ〜ぁ、羨ましそうに聴こえねー。魁華って一人で済んで楽ぅ?なんか観ながら、致す?」

「なんでシてる前提だし!シてないっての、私は!」

「えー、嘘ぉ〜んん!?シてないなんて下手な嘘は止めろしぃ〜!白状しな〜ぁ、魁華ぁー」

「白状もなにも、そんなんせぇへんわ!はすちぃみたく溜まってないもん、私……」

「うわぁ、白ける返事やでぇ。んじゃ〜泊まりたいっ魁華ん家!」

「幾ら友人のはすちぃでもプライバシー侵害されるの嫌やし……無理ぃ」

「ちぇ〜!まあ断られんのわかってたけど……慎城先輩には、曝けとるんちゃないん?ズルいなぁ、魁華てばぁ」

芦谷が私に断られ、唇を尖らし不貞腐れて、左腕を後頭部に持っていく。

「慎城先輩は関係ないでしょ、今……」

「私がなんだって〜槇村さぁん?」

私がボソっと呟いたのと同時に背後から、聴き慣れた高い声が私を呼んだ。

私は背後の声に驚き、歩みを止め振り返る。

振り返った私に衝突しそうな距離まで詰めた慎城が目をみ開いた顔で、「うわ、唐突に止まんないでよ」、と声をあげた。

「っ……す、すみません!って、慎城先輩……どうして?」

「起きるの遅れて。槇村さんと一緒に登校出来るかなってそわそわしながら歩いてたら、槇村さんの後ろ姿があって……」

「あぁ〜っと、私は一足先に行ってるわ。慎城先輩、魁華とごゆるりとしてください〜!」

芦谷が慎城茉央に差し出すように駆け出した。

「あ、ちょっ——」

私は駆け出し逃げようとする芦谷を呼び止めようとしたが、虚しく言葉は届かずに逃げ切られた。

「魁華、おはよう。二人きりの登校なんて、嬉しいわね」

「あぁ……おはようございます、慎城先輩」

私は喉の渇きを感じながら、慎城に挨拶を返す。

慎城が私と二人きりの空間でしか見せない笑顔を讃えていた。

私は全身に微弱な電流が流れたような痺れを感じながら歩き続けた。


高校に到着するまでの通学中に、尋常ではない量の汗をかいて、シャワーで汗を流したかった。


槇村魁華の右耳が慎城茉央の囁き声で、異常をきたしたのだった。

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