黒い太陽から逃れて

@MeigMeig

レジスタンスと私そして国家

1966年2月8日

この状態はいったいいつから続いているのだろうか。

かつてこの通りは人通りが多くにぎやかな通りであった。だが、いつからだろうか。今となっては灰色の瓦礫まみれとなってしまいかつて人々が歩いた歩道はすべていびつなまでに大きな穴が開いている。今となってはもはや人通りは少なくそして廃墟だらけの状態である。そんな惨状はなぜもたらされることになったのかを思い出すために記憶を巡らせる。


少なくとも私が覚えているのは確かあの時は1955年だったかと思う。黒い服とヘルメットをかぶった軍人らが砲弾が飛んでくる音とエンジン音とともに破壊をこのにぎやかだった町にもたらした。だがその時になぜ私は生き残っているのか全くなにも覚えていない。あの時は私は今も幼いが今よりもっと幼かった。そして私を産んだであろう母親の顔と優しかったであろう父の顔も覚えていない、今私はウィストンと名乗っているがこれは偽名で、親が私につけた本当の名前はわからないのだ。何もかも昔のことは覚えていないのだ。

私はそんなことを考えながら日光が容赦なく照らすアスファルトの上を歩いた。だがアスファルトの上を歩く1歩1歩がすごく重く感じる。もしここで憲兵の巡回のパトロールが来てしまったらどうなるのか。そんな恐ろしい、想定できうる最悪な結末を考えてしまった。そして思う、叶うならば今すぐそんな最悪な結末を考えないで済む場所へと逃亡したい。だがそれは不可能だろう。たまにパトロールを襲撃して回っているレジスタンスの奴らの話を聞くにはここら一体ではもうすでに党の支配が及んでいて、レジスタンスの活動も徹底的に弾圧されてるというのだ。頑張って逃亡しようとしても生身では無理であり、隣の国に行くにも検問を突破しなくてはならないしそんな技量も体力も武器もない。私みたいな何もできない非力な人間は権威によって殺されて行くのだ。だから私は今やってるようにいろんなところを転々と回って憲兵に頭にもう一つ穴を増やされないようにするのがせめてもの抵抗だろう。そんなことを考えながらよろよろと歩いていたらようやく目的の場所についた。レジスタンスの奴らが言う「魔女の家」だ。もともとバーだったといわんばかりの朽ちたのメニューの看板が立てかけられている廃墟に入る。その時腕が強く引っ張られ175cmだろうか、そのくらいの身長でガタイのいい男に思いっきり壁にたたきつけられた。

「お前はどこの野郎か?」

彼は私のあごに銃口を突き付けて、荒い声で聞いてきた。

この時は正直に答えてしまおう。じゃないとあごから前頭葉にかけて新しい穴を作る羽目になるかもしれないからだ。

「私はウィストンだ、国家保安部でも憲兵隊でもない。ただのレジスタンスとともに戦おうと志願する紳士さ」

額に汗を流しながらそう答えた。これは冷や汗なのかそれともただ単に熱いだけであるのかは分からない。が、正直今の状況はよろしくない。精神面でも身体的にもかなり疲弊してしまっている。

彼はしばらく黙り込んで私の体を離すと後ろに向かって「おい、新人だぞ」と大きな声で言った。

少なくとも私が国家保安部や憲兵隊ではないと理解してもらえたようだ。もしここで手こずってしまったら指の一つや二つが消えてしまうかもしれないと思ったくらいだった。そして後ろから168cmくらいの女性が出てきた。レジスタンスの奴らは「ケラー」というらしい。ケラーはこのレジスタンスのこの町の指導者的立ち位置でパトロールを襲撃したりするのを指揮したり、過去には軍事機密を積んだ装甲列車を脱線させその軍事機密を盗むこともしていたらしい。

ケラーは私の顔をまじまじと見つめてこう言った

「どこかで見覚えがあるな」

ケラーがそういうと私は正直何を言っているのか全く理解できなかった。私は少なくともケラーの顔を見覚えは一切ない。そんなことを考えてると彼女はすぐに「あの忌々しいあいつらが戦争をもたらしたときにウィリアムの顔に似ている。」といった。何を言ってるんだ?ウィリアムとは誰なのか。全く知らない人名に困惑した。そして今までの疲労がどっと襲い視界がだんだん暗くなり最後はそのままその場で倒れこんだ。

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