第30話 色相

 立体型の、色相環の端に住んでいる。名前はまだない。何しろ、グラデーションのあわいにいるので。

 すべての色に名前をつけようとした、この色相環の模型の持ち主は、赤色の始まりのところで早くも飽きてしまった。夏休みの宿題に使うと言っていたのに。

 色相環の、グレー表現の部分で、色達はさざめく。

 特別に練られたインクで刷られ、どの角度から見ても隙のない美しさ。これに名前なんて無粋なものが、つけられるものかしら。

 真ん中の色達は賑やかだ。こちらは端の方にいるので、中央の華やかなものとはほとんど会話しない。

 飽きていたはずの持ち主が、気まぐれにノートに名前を書き留めていく。虹色、ネズミ色、台所のシンクの色、冷蔵庫の色。床下収納の色を割り当てられたものが、クレームを述べている。ジャガイモ色、ニンジン色は黙っていた。

 洗剤の詰め替えパックの色と呼ばれたこちらは、どの洗剤なのか、どこの部分なのか、薄ぼんやりと悩むことになった。

 持ち主は、色相環のすべての色を使って、絵を描いてくれるらしい。

 詰め替えパック色も、本当に使ってもらえるといいなと、夢を膨らませた。

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