第29話 焦がす
カラメルをよく煮詰めて焦がす。じっくりと。ふつふつと煮えたぎる思いと共に。
あれやこれやの煩わしい些細なものたちが、ふつり、ふつりと砂糖水の泡の上で弾ける。
考えても悩んでも答えは出ない。けれど上澄みのように、カラメルは綺麗にできる。
プリンの天冠に添えられるべく生まれ、容器に注ぎ込まれる苦い味。
余りを、真っ白なバニラアイスの上にかけて、きんと冷えた銀色のスプーンで掬い取る。
アイスを食べながら、さっき用意したプリン液を注ぎ入れる。オーブンに入れた天板に湯張りして、プリンを湯煎。
ずいぶんと、いろいろな感情が遠く感じられる。
自分の、素の部分。透明な空気。辺りがうっすらと透き通ったような気がしてくる。
プリンが出来上がり、粗熱が取れたら冷蔵庫へ。震えるプリン達の、かすかな声が聞こえてくる。
呪詛のようには聞こえない。ずいぶんと透き通った、歌声だ。
よく冷えてから、取り出してみる。味見すると、プリンは甘く柔らかく舌の上でほどけて、まるで何かへの愛しさを歌うようだ。カラメルがそっとほろ苦く、一筋縄ではいかないけれど、美味しさを引き立てている。
煮えたぎっていたものから生まれ変わったそれを、まるで良いもののように梱包し、明日の自分のために作り置く。
悲鳴が、苦しみが、あったことは忘れていくだろう。喜びが、楽しさがあったことさえ。
それでも、プリンがある。
日々を繰り返し、生きていく。
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