第27話 鉱物
その生き物は、鉱物が好物なのだと言った。
価格均一店で安く買った、ハンドメイド用の真珠を渡すと、悲しそうに首を振った。
「これは外皮が有機物によって成り立っています。鉱物というのは、無機物なのです。例えばダイヤモンドとか」
人工ダイヤを差し出すと、生き物は鼻先でよく嗅いでから、また首を振った。
「これは人工的に作られている。私にはモノの組成と歴史が分かるのです。鉱物は、自然に産出されるものです」
自然に、ね。
はいはいと雑に頷き、庭に出て石を拾う。
「こういうの?」
「それは見るからに岩石ですね。いろんな色が散りばめられているでしょう、組成が違うものが含まれているのです。鉱物は、一定の組成であるべきなのです」
好みがうるさい生き物だ。そもそも勝手にベランダから入ってきたのに。
ちょっと爽やかな水色で、声も優しいものだったから、害がないように思えて、つい構ってしまったのだ。
「お腹が空きました」
生き物は、出くわした最初のときに言ったのと同じことを繰り返した。
珊瑚も生き物だからダメ。ルビーは、家にあるものは人工物だったので違う。
窓を見やる。早く帰ってくれないかな。窓の外は明るく白く、気だるい午後の空気が漂う。
「あっ」
透明な窓の汚れを見ながら思い出した。
急いでそれを差し出すと、生き物は、ためつすがめつして、
「まぁ、これでいいでしょう」
ごくんと鉱物を丸呑みした。
「これで星へ帰れます。ありがとう地上の友人」
その辺の山に住む生き物かと思っていたら、住む星が違うらしい。
生き物はゲップと共に、白いものを吐き出すと、
「これは高く売れます、香料として人気です」
と、渡してくれた。
安く買った水晶片の代わりに得たそれは、確かにいい香りだったが、たくさんの猫が集まってきて難儀したので、今は密閉して箱にしまってある。
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