第20話 摩天楼

 そびえたつビル達に、するすると登るものがある。

 それは細い蔓を伸ばし、葉を茂らせて、上を目指す。

 夜更け、まだ明かりのついた窓は避けて、暗い窓を埋めていく。

 ほう、と近くの森から通り過ぎた夜行性の鳥が声をかける。どこまで行くのかね。

 蔓はこたえる。今宵、行けるところまで。

 日が昇ると、蔓は透明になって息をひそめる。

 ときどき、窓を拭く人にぶつかって引き剥がされるが、大抵はそのままだ。

 次の夜、また次の夜。蔓は繰り返し伸びて、やがてあらゆるビルのてっぺんにたどり着く。

 気が済んだのか、蕾をつけて、色とりどりの、朝顔そっくりな花を咲かせる。

 摩天楼があざやかに染まると、月からウサギが降りてきて、気に入った花を連れて行く。

 今年も良い花ができた、と愛でる声。

 蔓達は、月に帰りたいと願うけれど、ほんの一部しか帰れない。

 季節が行き過ぎれば、蔓は枯れて、風に吹き散らされる。

 また来年。

 諦めずに蔓を伸ばす。

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