第18話 蚊取り線香

 蚊取り線香の渦巻きに腰掛けていると、端に点火された。ちちちち。最近ではあまりマッチが使われず、ライターや、電子的な火花で着火されることが多い。

 蚊取り線香の端が赤く燃え、ゆらり、白く煙がのぼっていく。

 あら、いつまでそうしているつもり?

 空中を漂う、天女めいた者が声をかけてくるが、まだ時間はあるのでのんびりと座っている。

 煙が、ざわざわとした気配達を追い払う。それは虫だったり他の何かだったりするが、とりあえず自分には、煙たいだけで、命に関わる効力はない。

 思えば、ここには長くいた。最近の、蚊取り線香の台からよじ登ってきた記憶しかないような気もするが。

 ぼんやりしていると、だんだん火が近づいてくる。尻の辺りがずいぶん熱い。

 煙たくて、目に染みて。

 ほらご覧なさい、連れてってあげるから。

 さっきのゆらゆらした者が戻ってきて、ひょいと掬い上げてくれた。

 どこへ行くのかと聞くと、高級な香料じゃないし、蚊取り線香くらいだから、それなりの浄土よたぶん、と、煙のように茫洋とした答えが返ってきた。

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