第16話 窓越しの

 窓ガラスに触れる。ひんやりとしていて、気持ちいい。頬をつける。

 窓の向こうは雨降りで、水滴が次々と広がって、跡を残して落ちていく。

 窓越しの世界は滲んでぼやける。

 色とりどりの紫陽花も。

「早く教えてくれたら、すぐ外に出してあげるのに」

 そう言われても、知らないことは答えようがない。

 雪女なんでしょう、手は冷たいし貴方がいる部屋は霜が降りる。そう言われて数日が経つ。

 雪女が梅雨の庭を抜けて建物に出入りできるというの? 雨傘くらいでは雨はしのげないのに。

 霜が降りる原因は、頭上で首を傾げている。

 雪降らしは、暑くても溶けたりしない。ただ冷え込むだけ。

 わざと暑いところに行ったり、炎天下で走ったりしても、付いている間は涼しいものだ。そこそこ日焼けした、健康的な、けれど何となく冷たい(近づくと寒い)人間の出来上がり。

 それでも、怪異が好きでレポートも作る、変なやつに見つかるまでは、平穏だったのに。

 授業の後で呼ばれて、話を聞かれて、夕方には解放される。

 そこにはおやつや飲み物があり、やつのおすすめする映像作品を見せられ、感想を言わされたりする。

 無理矢理、でもなかったかもしれない。こういう現象に心当たりはないか、何か解決策はないか、気になって、こちらから近づいたような気もする。

 こういうものを見て楽しむ仲間が数人集まってきて、雪降らしも暇そうに映像を見ている。

 わるいものではないのなら、そう焦って追い払わなくていいのだろうか。

 そう思っていたら、ある日、雪降らしはいなくなった。

 豪雨の日、傘がなくて。他の人達も持っていなくて。今日は梅雨の晴れ間だから、降るなんて言ってなかったのに、と口々に呟いて、体操服などを広げて雨避けにして、みんなで駆け出した。

 雪降らしは、一瞬、建物のひさしの下に取り残されてから、ひょう、と鳴いた。

 豪雨の空に、ちらちらと、絡まり合う細長い生き物が見える。

 ひょう、と鳴いて、雪降らしは飛んで行った。

 細長い生き物達と渡り合って、どちらともなく、どこかへ落ちていく。

 少しだけ、小粒の雹が降った。

 そうして幻だったみたいに、雨は止み、雪降らしはもう戻ってはこなかった。

 いつのまにか、もう暑い、夏だった。

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