第15話 岬

 岬の灯台に行ってはいけないよ。あれは海と陸の境目を監視している。向こう側から来るものを、案内して、決められた港へ導くんだ。

 そこで勤められるのは、向こうとこちらが分かるものだけ。

 だから行ってはいけないよ。

 子どもだから、一人で、あるいは子ども同士で、海辺に行って岩場で足を滑らせたりしないようにと、戒めるために祖母がついた嘘なのだと思っていた。実際に灯台に近づいて、見るまでは。

 この辺りでは、知らない人はいないらしい。夏休みに数日だけ、祖母の家に遊びに来る自分には、夢幻のようだった。

 灯台の、明かりがつく部分は、極彩色の巨大な瞳孔が置かれている。瞼はないので、瞬きはしない。

 勤められるものは、人ではなくて。

 祖母の声が思い出される。もし灯台に近づいて、向こう側のものに気に入られたら厄介だから、目を合わせてはいけないよ。

 極彩色の目は、ずっと海を見ている。だから人なんて見たりしない。

 岬の向こう、きっと自分が暮らしていた場所を、仲間を思い出している。

 きっと誰とも、目は合わない。

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