第13話 定規

 杓子定規なやつだった。決まりきったものが好きで。融通が利かない。

 物差しは長さを測るもの、定規は線を引くためにある、と言って聞かない。

 竹製の物差しは居丈高で、三角定規は長さも測れるのに、測ることは許されなかった。

 三角定規の住まう筆箱には、鉛筆が数本と消しゴムがいくつか、それに、やたらとたくさんの物差し達が並んでいた。

 親戚がくれた文房具を、どれでも全部入れているのだ。筆箱の持ち主は。

 三角定規は、筆箱からはみ出したまま、肩身が狭そうに俯いていた。いつも、竹製の物差しから、長さを測るときに三角定規が使われるのは越権行為だと怒られている。でも、使うのを選んだのは持ち主だ。三角定規に拒否権はない。物差しと定規を分けることなど、土台、無理というもの──。

 そんな中、

「スケールは物差しでしょ」

 今、新たな火種が生まれた。

 言い放ったそれは、あちこちレース模様のような飾りがついていて、恐竜の絵も描かれている。胴体には、なんでもスケールと書かれているが、目盛りは大ざっぱで、一ミリの枠がわずかにずれている。

 存在自体が、きっちりしていない。

 筆箱の中身達は、わあわあと揉め始める。

 持ち主が手に取ることは、たぶんもうない。

 ずっと前に置き去られ、そのまま、見知らぬ施設の落とし物入れに置かれている。乱雑に他の落とし物が追加されると、ときどき筆箱の中身が増えるだけ。

 何年も続く会話。過去の思い出話。

 杓子定規な竹製物差しだけが、諦めていないようで。

 プラスチック製の定規は朽ち、消しゴムが付着して変形していく。

 スケールも言い合っていたが、やがて寝そべってしまった。

「いつかここを出るとき、あんたは、転職先があるかもしれないね」

 古びていく筆箱の中で、竹製物差しは沈黙した。

 きっと大丈夫だ、竹製の目盛りは変形しづらい。

 だからきっと、お前達がすべてを忘れても、自分がきっちりと覚えていよう。

 いつまでも絶えることなく、変わらずに──。

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