第11話 錬金術
待ち合わせ場所に行ったら、友人は大きな鯛を持って待っていた。鯛は顔より大きくて、新鮮で、まだ跳ねている。
「どうしたの、それ」
釣りの予定があったとは知らなかったので聞いてみると、
「もらったんだよ。いや、話せば長くなるんだけど」
友人は経緯を話し始めた。
家を出るとき、スニーカーの紐が切れて困っている学生を見かけたらしい。家にあった靴紐(あまり履いていなかったもの)を譲ったところ、お礼にと、菓子パンをもらった。
その後、路上で、朝食を抜いて具合が悪くなっていた会社員に遭遇。菓子パンを譲ったところ、映画の招待券をもらった。大変珍しいものらしいが、会社員はその映画のファンで、何回も観たいからとたくさん持っていたのだ。
今度行こうかなと思いながら歩いていると、喧嘩中の恋人同士らしき人に出会った。水族館だか映画館だかに行くつもりが、なぜか喧嘩になったようだ。招待券をあげてみたら、元々興味のある映画だったらしく、大喜びして、仲直りした二人からお菓子をもらった。
「鯛は?」
「まだ続きがあるのよ」
鯛は元気に跳ねている。
友人は、
「ちょっと端折るけどね。結局、海岸沿いの道を歩いていたら、釣り餌を忘れたおじさんがいてね。おつまみセットの中に、チーズとかイカとか燻製肉、桜エビとかあったから、それをあげたの」
それらを組み合わせて釣るところをしばらく見ていたら、鯛が釣れたらしい。
「錬金術じゃん」
「わらしべ長者と呼んでくれ」
魔女から錬金術師に転職したらいいよと言ったら、嫌だよと言って鯛を押し付けられた。
「何それ」
「お土産」
「えー、特に何も持ってないから、交換できないな」
鯛を受け取り、カバンの中を探る。鯛には気絶してもらい、カバンを通じて、自宅の冷蔵庫へ。それから冷蔵庫の中身を探る。
「はい、これあげる」
「栄養ドリンクじゃん。元気の前借りは高くつくからなぁ」
「薬草学で主席だった私が作るものだよ。ちょっと底上げするだけ」
「まぁ、今飲まなくても、誰かにあげたらいいか」
錬金術師もとい、わらしべ長者は、とりあえずドリンクをしまって、今日の予定に移っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます