第10話 散った

 小皿にビーズを並べていたら、手が当たって皿が揺れ、中身が飛び散った。

 気分転換で、ちょっとした小物を作るのに、ビーズの種類が混ざっていたので、あらかじめ色柄を分けようと思ったらこれだ。

 さ、こっちへおいで。

 ビーズ達はいやいやと身を震わす。

 あるものは床の継ぎ目に、あるものは戸棚の後ろに、いそいそと駆けて、いなくなる。

 小皿の上の連中も、そうなると大人しくしていない。

 自由になるのが宿命だったのだとばかりに、皿の上で行ったり来たり。

 いくつかをつかまえて、すぐにテグスで繋いでしまう。繋がれると、ビーズ達は連唱し始める。色柄からも、大小からも自由な歌だ。

 かわいい、つやつやした半透明のビーズばかり選んで、夏向けの飾りを編んでやる。節くれのある木の材質のビーズも、シックなブレスレットへ。バッグチャームには爽やかなものを選んでいく。

 出来上がったそれらがお気に召したらしく、歌は楽しげになり、隠れていたビーズ達もそろそろと集まってくる。

 散ったまま帰ってこない連中は、いつか掃除機が回収するだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る