第6話 呼吸

 夕暮れ時、教室を歩いていると、同級生が戻ってきた。こちらを見て驚いたようだ。

「何をしてる」

「忘れ物」

 答えながらカバンに荷物を入れると、のんびりした奴だなと文句を言われる。

「間に合わないから、じっとしていろ」

 これから何が起こるというのだろう。机の陰にしゃがんで、息を止めろと指示された。呼吸を感知するらしい。

 蚊みたいだなと言うと、似たようなものだ、それともう喋るな、と面倒そうに言い返される。

 好奇心で、同級生が見ている先をそっと覗く。

 見慣れた廊下、窓にゆらゆらと、大きくて平たい、のっぺりとした影が映っている。

 息がもたない。

 ジェスチャーで主張すると、同級生は苛立ちながらも、諦めたようだ。

 静かに息をすると、窓の外の影が止まった。

 調子外れの笛のような音がする。何かを聞かれている気がして、返事をしないといけない気がした。

 同級生はこちらを背中から抱え込んで、声が出ないように喉を押さえてくる。

 相手の方が、心臓の音がはやいから、緊張しているのが分かって、大人しくしておく。

 影は首を傾げ、傾げして、行ってしまった。

「今のうちに帰ろう」

 同級生が手を引いて立ち上がる。

 礼を言うと、大したことじゃないと返される。

 いいや。ありがとう、助けてくれて。こんな私までも。

 たまにしか学校に来なくて、来れば変なものが出てくる。

 やっぱり場所と相性がよくないよと呟いて、私は転校することに決めた。

 それからは、ああいうものとは遭遇しなくなったし、同級生にも、もう会っていない。

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