第5話 琥珀糖

 琥珀糖を作る。夏のきらめきを溶かして、懐かしい色の寒天を固める。

 水分が程よく抜けたら、ちぎり取って、清潔な器に並べていく。

 今日、ほんとうは君を固めるつもりだった。寒天で固めたら何でもおいしいというから。

 君は夏日に当たると溶けてしまう、ふるい雪女の家系だと言って、それでも夏に触れたいから里に降りてきたと笑っていた。

 君の一欠片でも、形にしたかった。

 君が消えてしまう前に。

 君は空調を効かせた部屋から、鋭い日差しを見て、のんびりと琥珀糖を食む。まだ夏に、溶かされてはいない。

 雪山は太陽が近い。寒くても、その日差しは強い。けれど飲み込まれそうなほどに空は暗くて、ここほど薄い色ではないらしい。

 美味しいねと君は言う。

 いつか君を固めてしまおうと思っていることは、今はまだ秘密にする。

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