第3話 権力を伴わない力は平時において疎まれる
史上最悪の戦争は終わりを迎えた。
全方位を敵に囲まれたキルベターナ帝国は資源、人員、装備、精神、全てが半壊状態であった。それでも皇帝は徹底抗戦を命じた。神記歴1359年、この年には連合条約、総兵力4000万の兵が皇都に迫っていた。対する帝国は2000万の兵を展開し何とか帝国を守ろうと試みた。だが、装備もまともに無く補給もろくに来ない帝国兵はただただ蹂躙されていった。皇帝の側近達は連合条約に対しての講話を強く訴えたが皇帝の意思は変わらなかった。それに不満を募らせた重臣が一部地域で反乱。この反乱は「11月革命」と呼ばれることとなる。そして、同年、12月、ついに連合条約軍は皇都に侵入。そして、2日後、英雄ルーイ・アル・シェラー大佐(当時)により皇帝が殺害され戦争は終結した。
「ねぇ、シルフィー」
「何ですか?シェラーさん」
「終わったね。戦争」
「ええ。終わりましたね」
そういいつつシェラーははにかむ。
「思えばシェラーさんとも長い付き合いですね」
「あの戦線での撤退戦以来、ずっと一緒にいるわね」
「ふふふ、生き残りましたね」
「ええ。生き残ったわね」
「それから、シェラーさん、少将への昇進、おめでとう御座います」
「ありがとう。シルフィーも昇進おめでとう。少佐だったかな」
「はい。それから、参謀本部から一つ、呼び出しが」
ザドラム連邦軍の組織は上から国防総省、陸軍、海軍、特殊作戦本部、作戦情報部があり、指揮系統は陸軍が参謀本部、総軍、軍集団etc…
海軍は軍令部、艦隊etc…
とまあ、陸軍所属のシェラーたちにとっての最高指揮系統機関から呼び出されたわけだ。
「?何かしら」
「分かりませんが…恐らくですが部隊の再編に関することだと思われます」
「そう。じゃあ、行くから表に車回してくれる?」
「分かりました」
参謀本部
コンコン、と扉をノックする。
「ルーイ・アル・シェラー少将です。お呼び出しに際して参上いたしました」
「入り給え」
「ハッ」
因みにだがシルフィーは外で待っている。
「済まない。せっかく終戦して初の休暇だというのに」
「いえ、問題ありません。エデル・クラール元帥及び参謀総長閣下」
シェラーを呼び出した男はエデル・クラールと言い連邦陸軍参謀総長にして元帥である。簡単に言えば大統領の次に陸軍では偉い事実上のトップである。
「…ご用件をお伺いしても」
「ああ。君を呼び出した理由はだね新たに魔術師連隊を設立しようと思ってね」
「…軍拡ですか?」
「ああ。戦争が終わって早々にではあるがアルステリアールとの関係が途轍もなく険悪でな領土問題も多く相手も軍拡を続けているらしい。そのため、こちらとしても対抗策として少し軍拡をしなければいけない。もちろん戦時中に緊急徴兵したものたちの師団は解体する。軍の再編後の人数は二百万前後だろう」
「それで、連隊の編成をせよと」
「そうだ。連隊の規模は二千人ほどを予定している」
「魔術師連隊ですよね」
「ああ。第七魔導師団に組み込む予定だ」
「期間は」
「約一年ほどを予定している」
「分かりました。引き受けましょう」
「ありがとう」
「では、貴官はこれで…」
「ああ。その前に資料室に寄っていきなさい。そこに連隊編成に必要な資料があるだろう」
「分かりました。失礼します」
シェラーは部屋を出た。そして、資料室に向かう。
「えっと、こっちが資料室だったかな?」
資料室、と書かれた部屋に入る。
「えっと、この資料全部?!」
そこには山積みになった資料があった。
「シルフィーを呼んだ方がいいな」
シェラーはシルフィーを呼びに参謀本部から出ていく。
「シェラー少将、終わりましたか?」
「ああ。だが、資料を運ぶの手伝ってくれないか」
「ええ。いいですよ」
シェラーはシルフィーを連れ昇降機に乗る。
「シェラーさん、さっき待っている間に通りかかった同期から聞いたんですが軍内にてシェラーさんを排除しようとする動きがあるようです。そこまで表立って動きはしないと思われますが気を付けてください」
「分かったわ」
「それから、参謀総長もその一派だという噂もあります」
「…あまりそれを外で言ってはダメよ」
「分かっていますよ」
そういい話している間に昇降機は目的の階層に到達した。
「こ、この量の資料を…」
「そうよ。これ全部。何度か往復しましょう」
シェラーとシルフィーが資料を集め持って資料室を出ようとした。
「…!」
「シェラーさん」
「ええ。外に二人、三人いるわね」
「あれ?何か魔力が…」
「何か…眠い…」
「シェラーさん?!」
「不味い、これ、魔力が…」
シェラーが昏倒する。
「え?ちょ、ちょっと?!…寝ちゃった」
「手を上げろ」
「…私がやらないと」
私は手を上げるふりをしながら腰にある拳銃を取り出す。
「なッ…貴様!!」
バン、と乾いた銃声が鳴ると共に侵入してきた兵士のうち一人が胸から血を流して倒れる。それを見た残りの兵士は手に持っている小銃をシルフィーに向け乱射する。
「ったく、シェラーさんが眠っちゃったからかばいながらやらないといけないじゃないですか…」
シルフィーはそう愚痴をこぼす。
「シェラーを掴み後退する」
「…司令を呼んでい来い」
「ハッ」
シルフィーは剣を引き抜き兵士を切り裂く。そして、一度障害物の陰に隠れる。兵士は障害物に向かって乱射する。が、弾倉の弾丸が尽きリロードに入る。その隙を縫いシルフィーは兵士を切り裂く。
「ぐは…」
兵士を切り裂かれているがまだ息はある。
「おい、私の質問に答えろ」
「…」
「私たちを襲う指示を出したのは誰だ」
「答えると思うか?」
「そ。なら、死ね」
首を剣で刺し兵士を殺した。
「さてと、さっさと逃げないと」
資料室を出たその瞬間に首筋に手が置かれたのが分かった。
「なッ…え?」
そして、シルフィーは直ぐに悪寒と共に驚きに顔を歪ませる。バチッ、と音が鳴ると共に意識が薄れていく。
「クラール、参…謀総…な…で」
「済まないね」
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