第11話悪魔的咆哮

 ヒーロー協会へ向かう車を呼んだ。


 来たのは、いわゆる黒塗りのリムジン。


「わ、すごい」


 車を見て歓声を挙げたのは、麗奈である。


「ったく、会長の息子同然とはいえ、会長の車と会長秘書である私を呼び付けないでください。私は、あなたのアッシーではありませんよ! 自動運転車でも買って下さい」


 プンプンと怒りながら運転席の扉をひらいたのは、会長秘書の紋舞欄もんぶらん


「悪い。家出少女をヒーロー協会で保護して親に迎えに来てもらおうかと。ついでに麗奈ちゃんの検査結果とか、そろそろでてないかなぁ。なんて。それに、自動運転車とか怖いじゃん!」


 壊れたり暴走したりしそう。


 空飛ぶクルマとかも実用化されていたりもするが。


「会長と同じこと言わないでください。最近の自動運転車は、人が運転するより事故率が低いくらいなのに。昔の人はこれだから!…はぁ……乗ってください」


 

♠ヒーロー協会会長車内(黒塗りのリムジン)


「うわ、すごい」

 リムジンに乗って車内で感嘆したのは、梨花ちゃんである。


「車内も広くて豪華ですね」

 麗奈も同意する。


「冷たいジャスミンティーでも飲む? 気分が落ち着くよ」


 なんなら、あったかいやつも入れれるし、テレビも見れる。


 リムジンタイプの車は、細い路地とかで小回りがきかないのが難点だが。あ、あと会長のリムジンは完全防弾仕様である。


「「はい」」


 車内の冷蔵庫から、ジャスミンティーのペットボトルを二本取り出して2人に渡す。


「それ、補充するの私なんですけど」

 運転席から抗議の声をあげる紋舞欄。


「いいじゃん、けちけちすんな。被害者なんだぞ、この子。それに、俺は一仕事終えたばかりだ」


 そういいながら、俺もトマトジュースを冷蔵庫からだしてぐびぐびと飲んた。

クソ高そうなシャンパンとかワインとかを開けないだけ良心的だと思うけどな。

 



(うまい)


 ジャスミンティーもトマトジュースもコンビニとかで売ってなさそうな高そうなシロモノである。


 完熟トマトジュースは、リコピンとかがとても豊富そうだ。梨花ちゃんの血を吸えなかった変わりにはならないだろうが。


「ふう。しかし、このごろここらで遭遇するヴィランは、生まれたてみたいなのにやたらと強いんだけど」


「発生率も異常です。じつは……今日、ほぼ同時に他にも4件ほどB級ヴィランが出まして、詩音さんが対応中です」



「他に4体も?満月の夜じゃないのに?? 怪人になるヤバい薬でも流行ってんの???」


 発生率が異常すぎる。


 今のところ、AIが導きだしている満月の夜以外にB級以上のヴィランが生まれる確率は、ミニロトの1等に当たるくらいだったはず。←17万人に1人の確率


 まぁ、満月の夜にB級以上のヴィランが生まれる確率は、車に乗っていて交通事故を起こすくらいなのだが。←年間250人に1人の確率。


「ヤバい薬?」

 梨花ちゃんが首をかしげる。


「なんか…お母さんが“最近、歌舞伎町でヤバい薬を中国人風の男が安く売り捌いてるから気をつけなさい”って言ってたような」

 麗奈が歌舞伎町の裏事情を話す。


「沙奈さんが言うなら、信憑性が高そうだな。なんていう薬なのか聞いてる?」


 沙奈さんというのは麗奈の母親であり、“新宿の女帝”と呼ばれるほどのやり手のホステスさんなのだ。


「“エモデパオシャン“、でしたかね?」


 発音に自信がなさそうな麗奈。


「それは漢字で“悪魔的咆哮”って、書くのではないかしら?」 


 語学に堪能な会長秘書が運転しながら補足してくれた。


「悪魔の咆哮ほうこうねぇ」


 ――ヒーロー協会についたら、詩音に教えてやろう。


 そう思いながら、値段も栄養価も高そうなトマトジュースを堪能した。

 好みとしては……すだちかレモンを絞って、オリーブオイルと塩と胡椒も加えたかった。


(今度、紋舞さんにオリーブオイルと塩と胡椒をリクエストしておこう)とも思った。


 まな板と果物ナイフとレモンは車内にあるし。

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