第9話弱小種族[※行間大目です]

「オラァ!」


 とりあえず。豚野郎の鼻面を、思いっきり蹴ってみる。  


(そこ絶対、お前の弱点だろ)


 神経が集中していそうな箇所だ。


 蹴った感触としては……分厚いタイヤを蹴ったみたいな感じで、蹴り足が痺れる。


 そして、素早く後ろ(豚野郎の射程圏外)にステップバック。――ヒットアンドアウェイって、やつ。







「ブヒッ!?」


 ある程度きいたのか、不思議そうに頭をふる豚野郎。


 そして、鈍い動きでノロノロと蹴った俺へ醜い顔を向ける。












「ブヒッ? ブヒッヒッーーー!」


 なんとなく、「あ? 今、蹴ったのお前? 何してくれとんじゃーーー!」って感じで、怒り狂ったのがわかった。


 そして。のしかかっていた美少女から1歩前にのろのろと立ち上がる、豚野郎。











「ブヒぃ!」


 予想外の速さで俺との間合いを詰め、丸太のような上腕を力まかせにふるう。ラリアットに似ているが……所詮は、技もクソもない獣の攻撃!



(対処方は、攻撃を受け流すこと)


 瞬時に判断した俺は、空手でいう【回し受け】を選択。



 


(痛ってぇ!)


 豚野郎の腕というか、巨大な体躯ごと受け流すことには成功したものの、俺は反動で左斜め後方に飛ばされかけてよろめく。攻撃を弾いた右腕は、とてもしびれている。


 10%の俺を痺れさせるとは、こいつ……!






「ブヒッ」


 豚野郎は、勝ち誇ったようにほくそ笑んだ


(こいつ、理性がだいぶ残ってやがるな)


 

「この、弱小種族が!」とでも、わらわれた気分。 


 そして、また同じ攻撃をさっきとは逆の腕で繰り出す。


(一度通じた攻撃を2回連続で繰り返すのは、ナメプ)と怒るのは、俺だけだろうか?



「……てめぇ💢」  


 俺をなぶるの、そんなに楽しいか?


 いつ生まれ変わったのか知らないが、600年以上生きている真祖たる俺を嗤う?


(はぁ!?)


 

 手が逆とはいえ、基本的な間合いはさっきと同じ。

 しかも。攻撃のモーションも大きく、攻撃したあと、隙だらけになることも分かっている。


(俺の動体視力や反射神経を舐めんじゃねぇ)


 俺は攻撃を紙一重でかわしてみせる。そして、着地際、豚野郎が体勢を崩したところに右拳でみぞおちを的確な角度で打ち抜く。(しびれていた右腕は吸血鬼の回復力ですでに回復済み。そして、こいつの急所が人体の構造と変わってないのは、初見で透視済みである)


 みぞおちを打ち抜かれると、息が出来なくて動きが止まるのだ!――いわゆる、【ソーラープレクテスブロウ】ってやつ。





「ブフォ!」    

 唾を飛ばしながら、苦悶する豚野郎。


 その時間を利用して、サンチン立ちという態勢から、特殊な呼吸法で気を練る俺。







「こぉっーーーつつつ!」 

 これを空手で【息吹いぶき】という。


 呼吸法で強くなるってのは、漫画みたいだが実際にある。俺の実感では、倍くらいの強さになるかな?


 さらに、練った気を左拳に集中!これで攻撃の威力は激増する。







「【ハートブレイクショット】!」 

 技名を叫ぶ言霊ことだまとともに、左のコークスクリューブロウを豚野郎の心臓へ的確にぶち込む。





「グフッ」  

 この技をくらった相手は、心臓の血が逆するとかで、【ソーラープレクテスブロウ】以上の時間、動きが止まってしまう。


この時間を使って……










「20%。こぉっーーつつつーーー!」

 自身の筋力を強化。


 眠らせていた筋肉が起きて、モリモリと膨れ上がっていく。


 ――こいつの力を低く見積もりすぎていたのは反省しよう。



「コフゥー……お前が嗤ったわらった弱小種族吸血鬼に、力で上回られる気分をとくと味え! この、世間知らず豚野郎!!」


 放つは、体ごと叩きつけるような右ハンマーフック。


 この技は。だが獣のそれではなく、れっきとした人間の技。


 くらった技に似た技でわざわざとどめを刺す俺は、大人げないか?


  








「ブヒぃっつつつー」

 醜い顔をさらに醜く歪ませ、錐揉み状に吹っ飛んでいく豚野郎。












 吸血鬼の超能力を何も加えてない俺の30%【普通のパンチ】で脳震盪でも起こしたのか、泡を拭いて地にひれ伏す豚野郎を見て、溜飲を下げる俺。

 


(傍から見られている感じより、よほど苦戦した! こいつ、B級上位クラスくらいか?)


 何人(怪人の強さは一般的に人を食った数に比例する)食ったのかわからないが、なかなかの脅威。自惚れるだけのことは、あった。


 ヒーローのB級と怪人のB級は強さのレベルが違う。ヒーローのB級数人分が怪人のB級に匹敵する。そして怪人のB級上位は、一般市民に数十人の死者を出すことが懸念される程の危険度なのだ。ヒーローのA級ならば一人でもギリギリ対応できるが。


 怪人のレベルでS級(災害級)に分類される俺は、本来、一人で数分で新宿を壊滅でき、数十分あれば東京を壊滅できる。


 苦戦したのは、相手の強さを見誤っていたからに他ならない。言い訳すると、珍しくなったのだ。ヒーロー協会ができてから人が食われることが少なくなったし、B級に出くわすことが。この前の狼男の時もそうだったが。



「【転送】」


 詩音発明の腕時計型ヒーロー装置でヒーロー協会へ転送。 






 そして、勝利のポーズ。


「ダークヒーロー、執行!」


 今回の俺のポーズは、天と地を同時に指さす物。釈迦が生まれた時にとった、“天上天下唯我独尊”である。ギリシャの彫刻とは関係ない。


 俺の今の本心は、(あー。むしょうに、若くて可愛い女の子の血が飲みたい!)なのだが。

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