第7話送迎
テレビを見ながら紅茶と茶菓子を食べたのだが、麗奈はギリシャ彫刻の筋肉に「きゃあ〜見てください、あの三角筋♥上腕二頭筋♥大殿筋♥」と、ときめいていた。そのときめきっぷりに少し引いたのは、内緒。
ギリシャ彫刻の筋肉が写実的で見事であることには、同意するが。
(俺的には、“ミロのビーナス”の美乳の方がときめく!)
大きいのもいいが……控えめで形がいいのも、なかなかいい!
♠
ご飯を食べてお茶して片付けまでしてると、夜の9時近くになった
「送っていくよ」
そろそろ女子高生を一人歩きさせられない時間なのだ。そして、初めて会った時も自宅に送りとどけたので、麗奈の家の場所は知ってるが、同じ新宿でも少し離れた場所に住んでる。
車で送ってやれればいいのだが、あいにく車を持ち合わせていない。運転免許は持っているが、ペーパードライバーで。
いまや、自動運転車も完全に普及しているが、昔人間である俺には手を出しづらい。機械に運転を任せるとか怖すぎる。
(運転、練習しようかな?)
麗奈を送る機会が増えそうだし。協会の主任科学者にでも練習付き合ってもらおうかな?
とても嫌がりそうだけど。あいつ、引きこもりだし。少しは、外に連れ出してやらないと。
とりあえず。今日のところは、徒歩と電車で麗奈を送ることにする。
♠
「ふふ」
麗奈が楽しそうに俺の腕に自分の腕を絡めてきた。
大きな双丘が俺の腕に当たっている。
「こらこら。男にそういうことすると、勘違いされるよ?」
「京介さんに対してだけですよ。 なんか、お父さんに守られてるみたいで安心するというか。主に筋肉なんですけど。この前、横抱きされたのも、血を吸うために後ろから抱きしめられたのも、とっても良かった♥ 京介さんって1%でも筋肉量大分ありますよね。しかも固くいだけじゃなくてしなやかさもある理想的な筋肉というか〜」
そう言って、うっとりした感じで俺の腕に頬づりする麗奈。
その様は、とても子供っぽい。
お酒を飲ましたわけでもないのに、普段の大人っぽさはお出かけして迷子になっていらっしゃるらしい。名付けて、筋肉迷子!
「お父さん?」
この娘の筋肉フェチの根源は父親を早くに亡くしたことか!
そういえば。沙奈さんも、俺のことを「どことなくこの娘の父親に似てる」と言っていた。
女子高生からお父さん扱いされるのは、喜んで良いのだろうか?
まぁ。美少女に甘えられて、悪い気はしないのだが。
「ダメですか?」
「いいけど……その筋肉に対する厚い信頼と信仰は、どうなんだ? 悪い人に引っかかりそうで心配だよ。この前も、“道案内して欲しい”とか言われてホイホイついていったら、そいつが狼男になって襲ってきたんだろ?」
「悪いのは、筋肉ではありません! 人ですよ!」
…
……
…………
「それは、正論だけどさぁ」
考えたけど、いい反論が思いつかなかった!
「京介さんも筋肉、好きですよね?」
「俺の筋肉は、美しいと思うし見せびらかしたいけどね。俺の筋肉は、全てを解決する!って感じで」
「なにそれ。ナルシストな上に、脳筋ですか?」
麗奈は、クスクスと玉を転がすように笑った。
――脳筋≒アホって、聞こえるのだけど……
「麗奈ちゃんに、言われたくないよ」
「あはは〜」
初夏の蒸し暑さの中、腕を組んでお互いに少し汗ばみながら、そんなアホな会話を楽しんでいると……
「きゃあ!」
路地裏から切羽詰まったような女性の悲鳴があがった。
「またか」
しかも、麗奈がこの前、襲われていた場所からである。
(まったく……治安の悪い街だ!)
俺は、ため息をつくのを堪えた。
普段ならば(食事の時間だぜ!)と喜ぶところなのだが……
「ごめん、行ってきていい?」
「おともします。服の準備とか事件後のケアとかで協力できるかと思いますので」
大人で有能な麗奈が、迷子から帰還した!
「ありがとう。残業代も出すね」
仕方ない。今宵も(ダークヒーロー執行!)。ここからが麗奈の真の社会見学である。
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