第6話ディナータイム

「とりあえず、今日の仕事はこんなもんかな?」    


 初日だから仕事の説明が多く、3時間程度の勤務時間にとどめた。


「ありがとう御座いました!」


「疲れたんじゃない?」


「いえ。これから食事ですよね? まかないということでしたが……」


「うん。今日は、麗奈ちゃんの歓迎会をしたいのだけど、いいかな?」


「それなんですけど。僭越ながら、お弁当を作ってきました♥」


「え? 麗奈ちゃんの手作り?」


「そうです。お母さんの分のついでにと思いまして。いけなかったですか?」


 上目遣いで俺に問う麗奈、可愛い。


 この娘が襲われたのも、母親にお弁当をとどけた帰りだったとか。こんないい娘を襲うとは、どしがたい犬っころである。


「いや、普通に嬉しい。ありがとう。お店以外で異性の作ってくれた物食べるの、百年ぶりくらいかも」    

 正確な日数は、もちろん覚えてないが、第二次世界大戦以降は食べていない。



「百年ぶり! ……喜んで貰えるなら、良かったです」  


「食費もちゃんと2人分払うよ。まかない出す約束だし」


「そんなつもりは、なかったのですが……頂けるなら。他にリクエストありますか? ここ、キッチンあったし。 京介さん、自炊されてますよね?」


「うん。普段は、作る側だよ。ヒーロー協会の主任科学者や会長がほっとけなくて」


 ご飯を食べることを、忘れがちな連中なのだ。


 まあ。その見返りとして、血を吸わせてもらったりしているが。  


 そういう関係だから、怪人の懸賞金に色もつけてもらえる。


「へぇ」

  

「あ、リクエストだったね。そうだなぁ。……味噌汁、欲しいかも。食材は、あるもの使って」


 冷蔵庫に豆腐とワカメくらいは、あったはず。あと、出汁と味噌も。


「お安い御用です♥」


 エプロン姿の麗奈は、不謹慎かもしれないが新妻さんみたいでエロかった。というか……通い妻?




 豆腐とワカメのシンプルな味噌汁。


 まずは、匂いを嗅ぐ。


「いい匂い」


 出汁の香りが食欲をそそる。(日本人で良かった!)と、しみじみ思う瞬間である。



「いただきます」



「どうぞ。お口に合うかわかりませんけど♥」


 ズズッと味噌汁を一口すする。


 広がる豊かな出汁や味噌の味。 


「美味っ!」


 出汁や味噌の風味を損なわずに仕上げることは存外難しい。麗奈の技量の高さが伺える。いや、女子高生に味噌汁を作ってもらった事自体、感動的なのだが。



「恐縮です」


「毎日飲みたいくらいだよ」




「……」



「あれ?」


 麗奈は、顔を真っ赤にしている。


 …  


 ……



 …………



「京介さんって……」 


「うん?」




「そういうこと、言いがちですよね?」 



 えーと……


 あ!



 プロポーズ的な。


「ご、ごめん」 


「別に嫌とかでは、ないんですけど」


 じゃあ。なんで、少し怒ってるんだ?

 女の子は、わからん。 


 麗奈の作ってくれたお弁当もとても美味しかった。


 メニューは、肉じゃがとかきゅうりの酢の物などとても家庭的な物。


「お母さんに健康でいてほしくて」とは、麗奈の言。

 それから、「誰かと一緒に食べるの楽しいですね」とも言った。


「良かったら、次もまた一緒に食べよ」


 誰かと一緒に食べる夕食が楽しいということは、俺にも分かりみが深い。 


「はい」


 嬉しそうに、にっこり笑う麗奈。その笑顔は普段の大人びた感じと違って、高校生らしいもの。


 俺は、麗奈がここに来ることがすでに楽しみになったのだった。

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