ヴィランパンデミック

第5話仕事はじめ

「今日からよろしくお願い致します」 


 麗奈は、俺に丁寧に頭を下げた。


 ここは、新宿にある俺の事務所。国内に10人しかいないS級ヒーローともなると、独立・開業もできるのである。


「やぁ、麗奈ちゃん」


 上司になるのだ、“園崎さん”呼びは固かろうと、思いきって名前呼びに変えてみる。脳内では、すでに麗奈ちゃん呼びしていたが。

 “ちゃん”呼びは、なんか違うかな?

 彼女は、ビシッとスーツ姿で来ているのだ。


(女子高生には、見えないんだよなぁ)


 麗奈は名前呼びされたことなど何も気にしてないようで、キョロキョロと回りを見回している。


「けっこう綺麗にしてますね。京介さん」


 あ、気づいてないわけじゃなかった。


 さりげに、俺の呼び方も名前呼びになっとる。


「掃除くらい、するさ」


「男の人の部屋って、もっと散らかってるかと思ってました。掃除とかも仕事のうちかなって」


「仕事の内容も色々考えたんだけどね。事務仕事が多くなるかも。主に、こっち」


 そう言って、俺は自分の頭を指さした。


「脳内チップ……ですか?」


「俺は、脳内チップ入れてないんだよ。最近、何でもかんでも脳内チップで済まそうとする奴が多くなって、困ってる。高齢者の立場にもなれってんだよ💢」  


「高齢者……。見た目は、ギリギリ20代くらいなのに。本当はおいくつなんですか?」


 ギリギリは余計だ。


「えっと……600歳くらいだったかな?」


「くらい?」


「ごめん。歳を数えてなくて。だってさ。昔は太陰暦だったのに、今は太陽暦だろ。換算できないんだよ、自分の歳を」


「生きてるうちに年月としつきの数え方が変わることって、あるんですねぇ💦」


「そういうことばっかりだよ。まぁ、時代の移り変わりに対応することで、生き飽きずに済んでるんだけど」


 永遠に準ずる寿命を持つ不死者の死因第1位は、生き飽きたことによる自殺だったりする。


「脳内チップも入れましょ? 水でカプセル飲むだけですよ?」 


 ナノマシンってやつ。開頭手術とかは必要ない。必要ないが……脳にチップを入れるって、やっぱり抵抗あるよな?


 コンタクトレンズとかでも、嫌なのに。目も悪くないけど。ちなみに……近視や乱視、色盲なんかは、脳内チップで矯正できてしまったりする。


「それだけはご勘弁。俺は、超能力でたいていのことが、代用できるし。燃費が悪くて吸血衝動が、すごいことになるけど」


 テレパシーに、念写、サイコメトリーetcetc。脳内チップを入れないと出来ないことって、あんまり無いんだよなぁ、俺。


「私、貧血になっちゃいます」


「血を吸われすぎて、俺の身内になっちゃえよ」


「……それは、考えさせてください」

 

 何故か麗奈は、真っ赤になってうつむいてしまった。


(なんで?)



 熟考の結果、吸血鬼的にはプロポーズに相当することに気づいて、俺も赤面するのだった。人間的にもプロポーズだったのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る