第45部 4202年45月45日

 風が吹く音で目を覚ました。僕は布団から起き上がって、窓の傍に寄る。


 窓を開けようとしたが、たてつけが悪いのか、なかなか開かなかった。何度か上下左右にがたがたとやって、ようやく持ち上がる。


 窓が開いた途端、突風が室内に吹き込んできた。慌てて閉めようとしたが、やはりスムーズには閉まらない。どうしようもなくて、あたふたしていると、背後で大きな音が鳴った。


 振り返ると、部屋のあらゆるものが宙に舞い上がっている。本棚や作業机が壁に何度も接触しながら渦を巻いていた。


 恐るべきことだが、彼女が眠っているベッドも、彼女を載せたまま渦の中にあった。彼女は何も反応しない。まだすやすやと眠っているようだ。


(正気の沙汰じゃない……)


 窓を閉めようとしていると、遠くの方から何かがこちらに向かってくるのが見えた。それは容赦なく部屋に飛び込んでくる。窓の向こう側に立っていた僕の腹部にそれは思いきり衝突した。僕は後方に弾き飛ばされる。クローゼットに接触して、身体ごと地面に頽れた。


 口に血液の味が広がる。


 顔を上げると、窓から飛び込んできたのが彼女だと分かった。彼女には、今はコウモリのような羽が生えていて、それを収納しているところだった。


 羽を完全に収納し終えると、彼女は顔をこちらに向ける。黄色い目に見つめられた。


「何を……」


 彼女は、しかし、本当に彼女だろうか? 彼女はさっきまでベッドの上で眠っていたはずだ。しかし、その彼女の姿は今は見えなかった。渦を形成しながら舞っていたベッドが、僕の目の前に落下してくる。


「mirarete shimatte wa shikata ga nai」たった今部屋に入ってきた彼女が言った。「shobun suru shika nai na」


「どういうつもり?」僕は腹部を押さえながら立ち上がる。「何がしたい?」


「itsumo, kono sugata de asa no sanpo o shite ita no da yo. shiranaktta darou ?」


「知っていたさ」


「nani ?」


「いつか、お前の正体を暴いてやろうと思っていたんだ」僕は言った。「それが今日だとは、思っていなかったが……」


「dou suru tsumori da ?」


「コウモリを鳥類に変更してやろう」そう言って、僕はいつの間にか手に持っていた図鑑を彼女に見せる。


 彼女が目を見開く。


 僕はコウモリが載っているページを開き、「哺乳類」となっている分類項目を油性ペンで消して、その上から「鳥類」と書き直した。


 僕の前で彼女が呻き声を上げる。


 彼女は鳴き声を上げながらその場に蹲り、仕舞いには赤いモヒカン姿になって、一言「苔」と鳴いた。

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