第24部 4202年24月24日

 草原で四つ葉のクローバーを探していると、遙か上空にカイトが浮かんでいるのに気がついた。誰がどこから飛ばしているのか分からないが、風に煽られても体勢が不安定になることもなく、安定している。僕は立ち上がり、顔を上に向けたまま、カイトの紐の起点があると思われる方向に歩いていくことにした。


 この辺りは一面が草原で、終わりはない。僕がそう設定したからだ。僕だけしかいないようにも設定してある。だから、僕が設定した記憶のない、カイトのようなものが存在していることが奇妙だった。


 カイトを飛ばしているのは、きっと彼女だろうと僕は考える。僕が設定したものを設定し直すことができるのは、彼女くらいしかいない。それは、僕と彼女がもともと二人で一人だからであり、それは、見方を変えれば、彼女は僕の一部ともいえるからだ。


 草原を進んでも、草原のままで、草原を越えても、草原のままだった。しかし、しばらく歩いていると、前方にログハウスのようなものが見えてきた。こんなものを設定した記憶もない。ログハウスの前まで来ると、入り口の前に設けられた大きな庇を支える柱に、紐が括り付けられているのが分かった。その先にカイトが浮かんでいる。


 どういうことだろう、と僕は考える。


 彼女はここにはいないのだろうか。


 ログハウスのドアの把手に手をかけると、鍵はかかっていないようだった。ドアを開いた先には、ただただ広大な部屋が広がっているだけで、誰もいない。草原の果てから吹いてきた風が窓を揺らして、音を立てた。


 ドアを閉めて後ろに向き直ると、いつの間にか草原は消えていて、一面が海になっていた。


 ログハウスは海の上に浮かんでいる。


 カイトの紐はそのままになっていたが、紐を辿った先にあるのは、カイトではなく、彼女だった。カイトそのものが彼女だったようだ。彼女は紐に括り付けられた状態で上空に浮かび、本を読んでいる。


「あのさ」僕は上空にいる彼女に向かって、大きな声で言った。「勝手に設定を変えないでほしいな」


 僕がそう言うと、彼女は一度だけこちらを見て、すぐにまた本に視線を戻してしまう。


 そして、彼女が指を鳴らすと、僕の視界が揺れた。


 一瞬の内に、僕は上空に浮いている状態になった。


 眼下を見ると、さっきまで僕がいた位置に彼女が立っている。


「koutai」と、彼女が下から大きな声で言った。「soko de hon o yonnde ite, ii yo」


 そう言って、彼女はログハウスの中に入っていく。


 僕の傍には、「ぐれい、すけいる。」と題された本がある。


 僕はそれを手に取り、ページを捲った。

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