第23部 4202年23月23日

 変化がない、と彼女が言い出した。


「変化?」


 僕は読んでいた新聞から顔を上げて、対面に座る彼女を見る。


「sou. henka」


「どんな?」


「donna demo」彼女はそう言ってコーヒーを口に含む。それから、そのまま口に入っている液体でうがいをした。「mainichi, onaji koto o suru no ni, akita no da」


「そう?」


「sou da tte, itte iru no」


 僕は新聞を折り畳んでテーブルの上に置く。彼女に倣って、僕も一口コーヒーを飲んだ。うがいはしない。僕は毎日うがいはしない。朝起きてからもしないし、外出して家に帰ってきてからもしない。その代わり、鵜飼になりたいとは思う。ほかの動物を使役して、というよりは協力して、獲物を得るというシチュエーションに憧れる。


 僕達は馴染みの喫茶店にいた。しかし、馴染みの喫茶店というのが、どの喫茶店のことか僕にも分からない。あの喫茶店かもしれないし、その喫茶店かもしれない。とりあえず、喫茶店にいるということさえ分かればそれで良い。


「僕は、変化が嫌いかな」僕は言った。「新しいことをやりたいとは思うけど、その一方で、新しいことを始めて自分が変わってしまうのが怖いという気持ちもある。そして、どちらかといえば、後者の方が強い。意識的に変えようとするのではなく、自然と変わっていくのを待つ方がいい」


「mou, juubun, matta to iu koto da yo」


「そうなの?」僕はもう一口コーヒーを飲む。


「machikutabireta」


「自分では気づいていないだけで、色々と変わっているんだよ、きっと」


「tatoeba ?」


「髪の長さとか、声の高さとか」


「atarimae ja nai, sonna koto」


「その、当たり前を忘れてしまうのが、一番怖い」


「kowaku nante nai yo」彼女は話す。「atarimae no koto ga naritatanai to, nani mo omoshiroi koto wa, dekinai yo」


「そうだろうか……」


 自分がどれだけ変化したかを確かめる方法はある。それは、過去に自分が作ったものをもう一度見てみることだ。自分が作ったものは自分の分身だから、それも自分の変化の内ということになるだろう。たとえば、一年前に書いた文章を振り返ってみると、自分の変化がよく分かる。反対に、変化していない部分もよく分かる。


「jibun ga kaita bunshou nante, nidoto yomitaku nai yo」


 と彼女は言った。


 僕も同感だった。

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