第9部 4202年09月09日
目新しいことはそう簡単には起こらない。それがこの世界の掟らしい。世界に掟が与えられているとしたら、それを与えた主体は誰だろう。こういう場合、普通には、世界よりも上位の存在、たとえば、神様のようなものが想定されることが多い。しかし、そもそもの前提を疑えば、世界に掟の存在を認識する側に問題があるのではないか、と考えることもできる。つまり、それを認識する主体が、まさに世界に掟を与えた主体であり、両者は本質的に同等ということになる。
「hima」
と、本を読みながら彼女が呟いた。
「そう?」
と僕は応答する。
僕と彼女は、テーブルに互いに向き合って座っている。本に隠れて、彼女の表情は見えなかった。それほど大きい本を彼女は読んでいるということだ。図鑑の類らしい。そうなると、それはもはや読むものではないかもしれない。眺めるものだろう。
「何の図鑑?」僕は質問する。
「mushi」彼女は答えた。「konchuu」
「脚が六本の奴か」
「dou shite, roppon na no ka, shitte iru ?」
「知らない」僕は素直に答える。
「hanbun no jikan shika, ataerarete inai kara da yo」
「半分の時間?」
「ichinen no hanbun, gozen no hanbun, gogo no hanbun」
「一日の半分というのを避けてしまうのは、ご都合主義な感じがするな」本から顔を上げて、僕は言った。「そこのところは、どう説明する?」
「setsumei wa, fuyou」
「それじゃ、納得できないよ」
「nattoku suru hitsuyou wa nai. setsumei suru tame ni, kangaeru no de wa nai」
「それで?」
「nani ?」
「一日の半分、がなくてもいい理由は?」
「neru, taberu, furo ni hairu, to iu jikan o nozokeba, nokosareta jikan wa, daitai, juunijikan kurai ni naru yo」
「それらの時間を除く理由は?」
「ningen ni dake, tokuchouteki na jikan de wa nai kara」
僕は黙ってそっぽを向く。衣食住が本当に人間にだけ特徴的なものではないといえるだろうかと少々疑問に思ったが、今は呑み込むことにした。
「それで?」僕は再び彼女の方を見る。「虫は、その半分の時間しか与えられていないというのは?」
「sou iu shouchou da tte koto」
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