第10部 4202年10月10日
すっかり秋になってしまった。しまったという言い方をすると、どこか否定的な印象を受けるが、別段そんなつもりはない。ただ、時間というのは常に一定の方向に流れているから、後戻りはできない、というニュアンスが微かに感じられる程度だ。もちろん、「できない」というのは否定を含んだ表現だから、それを根拠に否定的だと主張すること自体は筋が通っている。
彼女と一緒にパフェを食べに出かけた。彼女が働いているのとは違う店だ。僕は、未だに彼女の勤め先に出向いたことがない。興味がないわけではないが、なんとなく、腰が重い。
「kureba ii no ni」
と彼女は言う。すでにパフェを注文して、僕達は届くのを待っていた。
「なんとなく、ね」僕は応じる。「知り合いに注文をとられるというのが、どうもね」
「chuumon wa, betsu no hito ga suru you ni, suru yo」
「うーん、それでも、どうもね」
「doumo, nani ?」
「うーん、どうも……」
非常に薄暗い店内だった。話しながら歩いてきたから、ここが街の中のどこに位置するのか、僕には分からない。見上げてもどこからが天井か判別できず、本物の木の枝や蔓が店内のいたる所を覆っている。建物自体が木造の装いだから、もはや本体と装飾が一体化しているといって良い。濃い橙色の照明が空間を薄ぼんやりと照らし、正面に座る彼女の表情を艶やかに照らし出していた。
パフェが運ばれてくる。僕は、これまでの人生で、パフェというものをほとんど食べたことがない。「ほとんど」という言い方をするのは、「一度もない」というような極端な否定をしたくないという僕の慎重な性質と、パフェというものの具体的な定義を知らないという僕の怠惰な性格を反映した結果だ。
細長い硝子製の器に、生クリームと、アイスクリームと、ソースと、ビスケットのようなものが、乱雑に、しかし一定の規律をもって盛られていた。僕が頼んだものはチョコレートを、彼女が頼んだものはイチゴを基調としていた。たぶん、ソースとアイスクリームが違うだけで、あとは同じだろう。しかし、料理というものは、まさにそういう部分でバリエーションを生むから面白い。
「最近さ」冷たいアイスクリームを口に含んで、僕は彼女に言った。「どこに行っているの?」
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