第6話 ~幕間~アビス様視点1

 ソフィアを送った後、俺は無駄に早足で城の廊下を歩いていた。通りすがりにあいさつをする部下達にどこか上の空で返しながら、先ほどの朝食の光景を思い返す。


『アビス様のお顔を拝見しながらおいしい食事を頂くだけで、幸せな気持ちになりますわ』


 攫って来て数日になるが、なんなんだ、あの人間は──!? 俺様は人間共の恐れる魔界の王だぞ、俺様が怖くないのか!? でなくとも、いきなり見知らぬところに連れて来られて不安にならないのか? いや、魔術的興味から攫って来た時は多少怯えていたような気もするが、どうもそれも人間にしては薄いと思うのだ。


 あんまり俺様への態度が、下手するとフランクな部下達以上に俺様への敬意を表してるものだから、つい手の甲にキスなどと、キザッたらしい事を実行しそうになってしまったではないか!


 結局しなかったがな! 決して恥ずかしくて出来なかったわけではない! 人間の娘一人手中に収めるのは簡単、急ぐ必要はないというだけだ!


 誰に向かって言ってるのかもわからん言い訳に夢中で、廊下の硬い壁に頭をぶつけたのは二秒ほど後の話だ。

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