第7話 お城探検ですわ

 アビス様をお見送りすると、途端に暇になる。本当はどこに行って何をしてらっしゃるのか、一緒について行きたいところなのだけど、ここに来てまだ数日だし、まだそこまでグイグイ行くのは失礼な気もして……。あとやっぱりお城の外がまだちょっと怖い! 時々見かけるお城の部下の人達は慣れて来たのだけど。


 ──ちょっとお城の中を見回ってみようかな?


 アビス様は「城の者には全員、お前を丁重に扱うよう言い聞かせてあるから、いない間も怯える必要はない。安心してくつろぐがいい」と言ってたし。でもアビス様が連れ出す時以外は部屋の外に出てなかった。お昼とお茶は部下の人が部屋まで運んでくれるし。部屋の本棚に置いてあった「魔界大冒険シリーズ」が結構面白くて……日に二回、必ずアビス様も会いに来てくれるし、ご飯おいしいし、ベッドフカフカだし、普通にのんびりくつろいでしまっていた……! 乙女ゲーマー、インドア思考になりがち。

 

 これが王道ヒロインなら、脱出する為に色々手を尽くすんだろうけど、別に私逃げたいわけじゃないし……。逆に何をすればいいのか……。


 いやいや、こんな事じゃダメよソフィア! 一目アビス様を見たい、お友達になれたら……なんて最初は謙虚な事考えてたけど、せっかく攫われ姫展開にまでなったんだから、とことんアタックあるのみよ!


 その為にはまず、このお城を把握しなくては! アビス様が今まで、どんな風に過ごして来たのか、どんな人達がいるのか理解しなくては! 状況を把握するって意味だと、別に脱出系ヒロインとやる事変わらないんだなあ。


 とりあえずドアを開けて、普通に外に出てみた。


「三日目にしてやっと自主的に出て来る囚われの女、変人過ぎて草生えるウサ」


 モッフモフの大きなウサギさんに罵倒された。鎧と槍で武装してるところを見ると、この子も兵士なのかな?


「普通囚われの女って言ったら、「ここから出しなさい!」ってしつこく見張りに訴えるとか、色仕掛けで油断させて逃げようとするとかするもんウサ。全くそういう要素がないから、部屋の中で死んでんのかと思ったウサ」


 酷い言われよう……! お風呂もトイレも部屋に完備されてる至れり尽くせりだから、アビス様との朝夜二回お食事つきデート(だと私が一方的に思い込んでいたい)以外で外に出る必要が無くて……! こんなホテルみたいな部屋、私、ソフィアの実家でもなかったし! もちろん前世でもこんな神立地じゃなかったはずなのだわ!


でもアビス様に連れ出される時にこんな子いたかなぁ。


「ボクは魔界オオウサギのラビだウサ。アビス様がいない間、お前の部屋を見張ってろと申し付けられているウサ」


 なるほど、昼間だけ見張ってる感じ?


「部屋の外に自主的に出る発想がなさ過ぎて全然気づかなかった……のですわ」

「オメーやっぱちょっとおかしいウサ」


 そうかもしれない……!


「そうね、ちょっとおかしかったから、このお城を見て回りたいと思って」

「なるほど、そう言ってごまかして、脱出の方法を探るウサね?」

「いえ全然、そんな気は全くないのだけど」


 そういえば「特に帰りたくも逃げたくもない、そんな理由もない」という意志表示をまだアビス様にキチンとしていなかったかも。ここに住んで、傘魔法の研究に協力するのに異論はないとは言ったけど。でも「全然怪しくないです!」とか言ったら逆に怪しいのと一緒で、言ったら逆に疑われるような気が。


「本当お前、変な奴ウサねぇ。別に行ってもいいウサよ」

「えっ、そんなあっさり?」

「その代わりボクも見張りとしてついていくウサ」

「ええ、どうぞ……というか心強いわ」


 アビス様を信用してないわけじゃないけれど、命令が行きわたっていない部下とか、個人的に人間を気に入らない魔族もいるかもしれないし。そんな時、自分一人だと心もとない。


「それで、どこに行きたいウサか?」


 大きなウサギが二足歩行でピョコピョコ前を歩いてるだけで正直かわいい……! ピコピコ動いてるしっぽにニヤケを隠せない!


「そうね……わたくしよりラビのが詳しいと思うから、あなたのオススメで」

「うーん……キッチンに行くとシェフやコックがニンジン料理を分けてくれるけど、まだお昼前ウサから……隊長のところに挨拶でも行くウサ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る