第5話 推しと朝食ですわ
というわけで、推しのアビス様との奇妙な同居生活が始まったのだけれど……。同居と言っても広いお城の中の話だし、アビス様も色々お忙しいみたいで、会えるのは朝と夜の、研究の為の傘魔法をお見せする数時間だけという感じ。
まあそうよね、アビス様のお忙しいでしょうから。不在の間の便宜は色々図ってもらっているし、朝と夜会いに来てくれるだけでも喜ばなきゃ。
「どうした? 何か食べられないものでもあったか?」
「いえ、問題ないですわ」
大きな食堂の大きなテーブルで向き合っての朝食。見慣れない食べ物は多いけれど、どれも味は普通というか、普段食べているものより美味しい事が多いかも。
昨日の夕食に出た魔界イグアナの丸焼きは流石に驚いたけれど。
「そうか。苦手なもの、好きなものがあったらなんでも注文をつけるがいい。俺様お抱えの料理人達は細かい注文も完璧にこなして見せるからな」
得意げに言いながら、サクサクのクロワッサンの上に魔界イチゴのジャムを乗せていくアビス様。ちょっと乗せすぎじゃないかしら? 魔界イチゴのケーキというか、魔界イチゴ料理全般が好物? 確かに私もここに来てから一番ハマってる食べ物ではあるのだけれども。
「いえ、ここに来てから何不自由なく良くしてもらえてますし……アビス様のお顔を拝見しながらおいしい食事を頂くだけで幸せな気持ちになりますわ」
これは本心……なんだけど、もうちょっとテーブルが小さかったらなぁ! なんでお城とかの食堂のテーブルって、めっちゃ長くて端っこと端っこがこんなに離れてるんだろう! 向かい合わせなのにお顔が遠い、遠いわ! 初めて来た時一緒にお茶を頂いた時のテーブルくらいなら、お顔が間近に見れて楽しいのに! 一般的なマナーに沿ったものではなく、何事も派手好みのアビス様が好んで長いテーブルの端と端をお客さんと自分相手に使いがちらしいけど、なんだかなぁ!
「ゴホン……ッ! そ、そうか……」
アビス様がむせた。甘いジャムが喉に引っかかったのかな?
魔法の披露、二人で朝食の後はアビス様自ら客室へ送ってくれる。部下の人に任せればいいと思うのだけれど、優しいのね。
「ソフィア、」
部屋まで戻ってすぐ、アビス様が私の手をそっと手に取り、顔の方まで持ち上げる。
「いや、何でもない……夜、また来る。その時を楽しみにしているがいい」
「? はい」
持ち上げられた手は、再びそっと降ろされて。アビス様は出て行ってしまった。
夜、また来る。なんて言葉だけ拾うと色っぽいけど、やってる事は「魔法のおねえちゃん、魔法見せて! 魔法見たらご飯食べよう!」みたいな感じで全然それっぽい空気にならないのよね……それはそれで推しがカワイイんだけれども。
それにしても、なんだったのかしら。いきなり手を握られてしまった。心情的にしばらく手を洗いにくいわ。いや洗うべき時は洗うけど流石に。汚い格好でアビス様の前に出たくないし。
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