第一章ですわ

第3話 推しとお空の旅ですわ

 さて、前回(心情的にはだいぶ)自主的に攫われてきた私ですが……空の旅、なかなか怖い! 推しにお姫様だっこされてる状態だし!? ここぞとばかりに首に抱きついてますが、それでもヒューヒュー常にうるさい風とか、地面が遠すぎる事とか、心もとない! いかにも魔族! って感じの、コウモリみたいな翼を広げて飛んでるアビス様はカッコいいんだけど、情けない事に泣きそう……というか涙目。


 というか魔界、ゲームで描写されずじまいだったけど普通に怖い! 空にはよくわかんない怪物が飛んでるし、魔力の灯りとか発光植物がないところは真っ暗だし、「グゲゲ!」「ガガァ!」みたいな不気味な鳴き声聴こえてくるしぃ!


「フッ、どうした、怯えているのか? なぁに、女を取って食いはしない」

「アビス様ではなく、この高度が怖いです」


 魔界の風景も怖いけど、主な恐怖はそこかな。風景はどさくさに紛れて抱きついてればあんま怖くないかなって!


「やはり面白い女だな、お前。名は──確かソフィアと呼ばれていたか」

「は、はい。ソフィア・アンブレラですわ」

「そうか、ソフィア。空を見よ」


 見上げれば、空には赤い月。魔界の月は赤いらしい。


「美しいと思わないか? 恐ろしいと思うなら、着くまであの赤い月でも眺めているが良い」


 アビス様なりに気を使ってくれたんだと思うけど……女子供を慈しむ形に細められた、あなたの美しい瞳の月の方が癒す効果があると思います。さっきの子どもっぽい笑顔とはまた違う、魔界の王って感じの寛大な表情。


 あと、普通に高度を下げてくれました。推しの優しさが身に沁みる……、けど!


「やっぱり近くで見たら風景も怖いですわ!」

「はっはっは、そこは城に着くまでの我慢だな!」


 だって墓場に!ゾンビとオバケが大量発生してウーアーとか叫んで! 特別怖がりじゃなかったはずなんだけどな!? やっぱり実物はちょっと!!


「ところで何故お前は俺様の名前を知っているのだ?」


 やべっ。


「それは……ほら、アビス様ってソル王国でも噂を聞く有名人だから~」

「フハハ、そうかそうか! 俺様くらいとなると、名前も一人でに人間界に轟くわけか!」


 なんとか誤魔化せた~。うすうす勘づいてはいたけど、アビス様結構アホの子?

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