第11話 駅跡(えきあと)
三人でタクシーに乗った。
もともと神社へはタクシーで帰るつもりだった。
でもいま、いきさきは神社じゃない。
「若い女の子たちが、
そう話すのはタクシーの運転手さん。
「おじさんが子供のころは、まだ
運転手さんの話を、助手席に座るヒナちゃんが熱心に耳をかたむけていた。
「それに下田井駅は、すぐ近くが漁港だ。めずらしいだろ、こんな駅」
助手席のヒナちゃんが、ウンウンとうなずいている。
「漁港……」
つぶやいたのは後部座席。わたしのよこでポテトを食べているハナちゃんだ。
「
ハナちゃんが、そうつぶやいた。こっちはこっちでマニアックなことを知っている。これは両方よることになりそうだった。
ハナちゃんのつぶやきはスルーして、ヒナちゃんは運転手さんにたずねた。
「
「いや、駅舎は何年かまえに取りこわされたんだわ」
がっくりと首をうなだれるヒナちゃんの姿が、うしろからも見てとれた。
「だけど、当時の車両は残っててな。乗りおりもできるはずだ」
「車両はひとつだけですか?」
「いや、人を乗せる乗客車両や、貨物運搬車両とかいろいろだ」
「おお……神!」
ヒナちゃん、思わずこぶしをにぎる。巫女さんが神という言葉をかるがるしく言っていいのかわからないけど。
ヒナちゃんと運転手さんが話をはずませていたら、タクシーはあっというまに『旧下田井駅』という廃線の終着駅についた。
わたしたちのほかに人影はなく、タクシーは敷地の入口ぎりぎりまで入って停めてくれた。
「うわぁ、エモい」
タクシー代をはらって最後におりたけど、おりてすぐに言葉がでた。
山すその駅だ。周囲は木々がおいしげっている。
まわりは深い緑なのに、ぽっかりと広い空間があいていて。そこに何十メートルかの
地面から高い位置にあるプラットフォームには、当時のものとおなじなのか駅名の看板がぽつんと残っている。
まっ白いペンキが塗られた木製の駅名看板が、とてもきれいだった。
白く塗られた看板には、黒いペンキの手書きの文字で「しもたい」とひらがなで駅名が書かれてある。
「いいところだろう」
運転手さんが車からおりて、なつかしそうな目で廃駅を見た。
「はい。とってもいいと思います。わたし、この駅には初めてきたのに、なぜか胸にぐっときます」
「そうだなぁ」
運転手さんは遠くを見るような目だった。なにかを思いだしているような顔だ。
「駅ってのは、むかしから出会いとわかれの場だからかなぁ。若い人でもロマンチックに感じるのかもなぁ」
そうか、駅は生活の一部である。だけど、この街から去っていく人には出口、または入ってくる人には入口だ。それは出会いもわかれも多くあったと思う。
「けっこういまじゃ人は多いけどな、もとは漁師の村がちらほらあるぐらいのいなかだ。学校をでたら、みんな
運転手さんは、プラットフォームだけが残った駅を見つめた。
「廃駅だが、観光地として残してあるから、きれいなもんだろう」
運転手さんの言うとおりだった。
きっとだれかがきちんと管理をしている。無人のプラットフォームにはゴミひとつないし、線路には雑草もはえていない。
「それじゃあ、ここでいいんだな。児島駅まで帰らなくて」
「あっ、はい。この近くにしばらく住むことになったんです」
「そうかい。ようこそ、児島へ。若い人は大歓迎だ」
「はい、海がきれいで」
「若い人ならジーンズだろう。まあ、おじさんには高くて買えないけどな!」
運転手さんはそう言って笑い、自分のタクシーに乗りなおした。
そうだ、児島ジーンズ。関東にいるわたしでも聞いたことがある。日本で初めてジーンズを作ったのがこの街で、いまでもジーンズを作る会社がいくつもあるとか。
わたしは窓から手をふる運転手さんにおじぎして、さきにおりた先輩巫女のふたりを探した。
ヒナちゃんは停車場にある電車をスマホで熱心に撮影している。ハナちゃんはプラットフォームにある木のベンチに腰かけていた。
わたしも線路をまたいで歩き、プラットフォームにのぼった。
プラットフォームからの景色が、これまたエモい。うしろは山なのに、まえには家々の屋根があり、そのむこうには海が見える。
緑にかこまれているので山の匂いがした。けど海が近いので海の匂いもする。
これは本当にエモい。わたしは深呼吸しようと胸いっぱいに空気をすいこんだ。
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