第9話 迎(むかえ)

 また児島駅だ。


 数日まえにきたばかり。


 今日は『助手』がふたりくるということだった。


 イザナミさんの助手といっても、年齢はわたしたちとおなじぐらいだと聞いている。


 どんな人だろう。初めて会うのに、送迎がわたしだけというのが不安。あいにくイザナミさんは仕事でこられない。あとは鈴子さんがいるけど、おなじ場所にいるのを禁じられている。


 プラットフォームの到着を知らせるベルが鳴った。顔をあげてみると電車が入ってくるところだ。


 平日の昼間で、電車からおりてくる人はすくない。まばらな人影から探してみるけど、高校生らしき人はいない。考えてみれば、男子か女子かぐらい聞いておけばよかった。


「あのさ!」


 背後から声をかけられた。ふり返ってみると、だれもいない。


 いや、いた。小学生かな。わたしの胸ぐらいの身長しかない子供がふたり。女の子だ。


 うわぁ、しかも派手な女の子。ふたりともショートカットだけど、ひとりは髪が水色。もうひとりはピンクだ。


 髪型はおなじショートに見えて、水色の子は左分け。ピンクの子は右分けだ。あれ、髪型だけじゃなく顔もにている。ということは……


「あなたたち、双子?」

「そうだけど、イザナミから聞いてないの?」


 聞いてない。うん?


「イザナミって言った?」


 さっきからしゃべっているのは水色の子で、その水色の子はため息をついた。


「イザナミのママらしい適当さ。ウチが、ヒナ。こっち、ハナ」


 水色ショートカットの子は、自分をヒナ、もうひとりをハナと名乗った。


「あ、あなたたちが助手!」

「そうだけど?」


 おどろいた。こんな子供が!


 それに気になることがある。


「マ、ママって言った? もしかして、イザナミさんの子供!」


 おどろいたのに、ヒナと名乗った水色の子はあきれた顔で腕をくんだ。


「あの人まだ三〇でしょ。中二の子は無理じゃない?」

「えっ、あなたたち、中二なの!」

「その言いかた、失礼じゃない?」

「あぁ、ごめん! 小学生に見えて!」

「それ、さらに失礼!」


 うわぁ、そのとおりです。ごめんなさい!


「カヤノって人と、鈴子って人の護衛と聞いてる。名前の感じからして、あんたカヤノ?」


 ぶんぶんと首をたてにふってうなずいた。


「そ、そのとしで、もう巫女さんなの?」

「そうだけど?」

「巫女にしては、そのふたりの髪……」


 わたしは怒らせないよう遠回しに聞いてみた。


「ああ、この髪」


 自分の水色の髪を片手でつまみあげ、ちょっと笑った。


「この髪にしてから、ウチら地元で有名になったの。おかげで神社には人がくるようになったし」


 な、なるほど。たしか地方では、人がこなくてこまっている小さな神社も多い。そんな話はニュースかなにかで何度か聞いたことがある。


「父も母も、親孝行な娘たちだってよろこんでる。寄付金で鳥居と参道の整備もできたし!」


 た、たしかにそれは親孝行。


「学校は、先生おこらない?」

「そこはねぇ、家が神社だから。もう巫女として働いてるし。そうなると、なかなか先生も言えない」


 そ、そういうものなのかな。


「はたから見れば、神社は宗教法人じゃ。くちだしはしにくい」


 急に口をひらいたのは、ピンクのほうの女の子だ。


「えっと、ハナちゃんだっけ?」

左様さよう

「えっと、なんでそんな口調?」


 わたしの質問には、水色髪のヒナちゃんがうんざりしたような顔で答えた。


「もっと言ってやってよね。もうここ一年ぐらい、この口調なの。威厳いげんがでるからって」


 つまりハナちゃんは、巫女さんになってから老人みたいな口調に変えたというわけかな。


「わらわの言葉は、参拝者からも人気じゃ」

「だからハナ、人まえだけでやってよ」

「そんなウソはいかん。ふだんからのおこないが重要じゃ」


 なんだか、どこかのアイドルよりイメージ作りが徹底している!


「カヤノよ」

「は、はい、ハナさま!」


 思わず雰囲気に飲まれて『ハナさま』と言ってしまった!


「わらわは、長旅にてえをしのんでおる」


 それはきっと、おなかすいた、ということだ。


「ではすぐに、タクシーで神社へ」

「いな!」

「いな?」

「いなじゃ」


 いなってどういう意味だろう。


「ハナって、おなかがすくと、うるさいのよね」


 食事の話には興味がないのか、ヒナちゃんは線路のさきを見つめていた。


「わらわは、ハンバーガーが所望しょもうじゃ。さきほど電車から見えたゆえ」


 なにそれ。この小さな巫女さん、わたしとこのみがおなじ。気があうかも!

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