第7話 神社(じんじゃ)
なんでだろう。
気づけば病院にいた。
白い天井に白い壁。ぜったいに病院だ。
「カヤノ、目がさめたか」
わたしの視界に知った顔があらわれた。女刑事さん。そうそう、名前はイザナミさんだ。
「あの、わたし……」
「ちょっと
おかしい。小さなころから異形のものを見たことは何度もあった。
「イザナミさん、わたしいままで気を
「ああ、カヤノは都会育ちだからな。自然が多いところのほうが、精霊たちの力も強い」
そういうことか。いままでは黒い霧としか見えていなかったのに、ハッキリとカタチになって見えた。
「精霊って悪いものなんですか?」
「悪いものであるわけがない。
言われた意味がわからなかった。
わたしが眉をひそめたのが伝わったのか、イザナミさんが言葉を続けた。
「簡単に言うと、野生動物みたいなものだ。野生のオオカミに近づき
言われてなんとなくわかった。『
「医師の診断では、かるい貧血みたいなものだと。もう、おきてもいいぞ」
イザナミさんに言われ、わたしは寝台から上半身をおこした。
「すいません、お手数かけて」
「いや、悪いのはこっちだ。初めての土地をひとりでいかせたからな」
イザナミさんが
「初日から、あなた面倒をおこしますねぇ」
なんだか
「さきが思いやられますわね」
鈴子さんはそう言って、わたしの靴を寝台の下へ置いてくれた。
言い返したいけど、ふり返れば先日は殺人犯、今日は山の神さまと、わたしは
「厄介ごとの神さまっているんでしょうか。
「カヤノ、そういう言いかたは
「カヤノはおそらく、巫女の資質が強い。資質が強い者は、やおよろずの神々を引きよせやすいんだ」
「霊感が強い、みたいな感じですか?」
「そんな感じだ」
「なるほど」
巫女さんになるのか、ならないのか。それすら決めていないけど、わたしには巫女の資質がある。それは
「イザナミさん!」
「なんだ?」
「わたし、言葉づかい、気をつけます!」
「お、おう。言葉はいろいろな意味を持つしな」
言葉の意味か。深く考えたこともなかった。
あれ、それをいえばイザナミさんは『クソいなか』とか口が悪いけど、あれはいいのだろうか。
「こまったものですねぇ」
口をひらいたのは鈴子さんだ。
「これだから
そうか、神社の家での生まれだから鈴子さんは
っていうか、ふたりのほうが口悪い!
気を取りなおして靴をはいた。
「よしっ、遅くなったが、わがやに帰るか」
「遅く?」
イザナミさんの言葉で壁にある時計を見た。もう真夜中の
看護師さんを呼んで帰ることを
イザナミさんの運転する車で二〇分あまり。夜なのでどこを通っているのかわからなかったけど、途中から細いのぼり道を車は進みだした。
しばらく坂道をのぼり、イザナミさんが車を停める。
わたしと鈴子さんは後部座席に乗っていたけど、ドアのロックが解除されたのでわたしは車からおりた。
「ここが
鈴子さんの声だ。鈴子さんも車からおりていた。あたりを見まわしている。
「鈴子さんも、ここは初めて?」
「はい。なかなかに立派な神社だと、うかがっております」
どうでもいいけど鈴子さん、わたしに対してずっと敬語だ。それはなんだか心の距離を感じる。
「ここは神社の
「うらて?」
「関係者がつかうほうの道です。おもてには石の階段や
「鈴子さん、ここは山の頂上ですか?」
「はい。小高い山の上にある神社です。この下田井神社は。海の見える神社としても有名で……」
それを聞いて、運転席からおりてくるイザナミさんを見た。
「見てきていいですか!」
「おまえ、元気だな」
「海、大好きなんです!」
せっかく海ぞいの街にきたのに、児島駅からちょっと見ただけ。
めったに海なんて見る機会がない。わたしの住んでいた神奈川だと
イザナミさんはあきれた顔をしたけど、指で方向をしめした。
「
「ありがとうございます!」
その方向にむけて走った。
夜の神社は暗かったけど、外灯がひとつあったのでなんとか見える。
ぐるりと神社をまわりこむようにして、おもてにでる。
「うわぁ!」
ほんとに神社から海が見えた!
見えたのは、夜の
空はうす暗く、海はもっと黒い。まっ黒な海から、あちこちにひょこひょこ小さな島が見えるのがかわいい。
「これは、
声がした。ふり返ると、お
鈴子さんのよこに
わたしも建物を見あげた。大きな木造の建物だ。木の柱なんかも太い。
「見てください、
鈴子さんが指をさしたのは、がらんがらんと鳴らすあれだ。
ふたつの大きな
鈴子さんが、その太い縄をにぎってゆらした。がらんがらん! と思ったより大きな音がひびいた。
『鈴子』さんが『鈴』を鳴らす。ちょっとおもしろい。
「夜ふけに巫女が鈴を鳴らすなど!」
駆けてきたのはイザナミさんだ。思わず、鈴子さんと見あった。やってはいけなかったのだろうか。
みょうな気配がして、ふり返った。海のほうだ。
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