第121話 深淵王グドルーの登場と、盟友ダエージュの来訪


 はぁ……昨日は疲れた。もう条件付きの五年間の不可侵条約の期限が、残り半年になってしまったので、急ぎ執務室で軍事会議を開いたのだ。


 その会議には、軍都レギオンで有事の際に三大将軍を任せた、アドム、ドリマ、プレースも参加し、総勢39名の大会議になった。

 内容は、戦争の時に前線を守る部隊と、後方支援の部隊についてである。


 教皇国マギアヘイズの前線は、全ての属性攻撃無効の権能を持つザルエラを指揮官にし、三閻羅さんえんらのテュポーンと、ハーデスを指揮官補佐とした。対神聖結界を張る事ができる、30万人の正真祖せいしんそと、テネブリスとフランマが率いる合計6億匹のアークデーモンで構成された、悪魔軍団ダークネスとブレイズも前線に参加させた。


 後方支援は僕と、アグニスと、ソルと、ルーナである。


 ダミアンヘイズ第三帝国の前線は、アラン率いる軍都レギオンの500万人の兵士と三大将軍を任せたアドム、ドリマ、プレースが守り、参謀総長ピノネロをアランの右腕として同行させることにした。


 さらに、六怪ろっかいのドラゴンとエルダードラゴンのエルを前線に送り、対バーラーの主力とした。その後方を守るのは四獣四鬼しじゅうしきと、六大守護聖魔である。


 それ以外にも、細かい会議内容が続いたが、一番大事な会議内容は以上だ。


 しかしまぁ。早いよな……。最初は五年もあると思ったのに、もう残り半年か。でも、出来ることは全てやった。後は敵さんの出方次第だな。


 ──ん? なんだ? もの凄いオーラが急接近してくる。

 てか……どんどんオーラの量が増えてるぞ!


 【伝えます。個体名グドルーが、首都モンテスに急速接近しています】


 は? 四凶のグドルーが何で? てかこのオーラの量は異常だろ!


 【伝えます。個体名グドルーは星壊級せいかいきゅうです】


 星壊級? それって星創級せいそうきゅうより強いの?


 【伝えます。星壊級は星創級よりも、上位に位置する存在です】


 ちょっと待ってくれ! そんな奴、今は相手にしていられないぞ!


 てか、この気配──上空を飛んでるぞ。確かグドルーは深淵王とか聞いてたから、深海に住む四凶だろ? 船とかで来るんじゃないのか?


 そんな事よりも、なにが狙いか解らないが、グドルーが街を破壊する可能性だってある。今は僕も上空でグドルーが来るのを待つとしよう。


 そして、普段着に着替え、天魔刀も佩刀し、飛翔幻舞ひしょうげんぶのスキルを使い、自室の窓から上空に飛んだ。


 気配からすると、あと数十秒ぐらいか──来た!


 上空から急速接近してきたグドルーは、およそ僕が想像をしていた自分とは全く違っていた。


 深海に住む王なので、魚のような奴かと思おったが人間だったのだ。


 急速接近により逆巻く風の風圧を放ち、瞳を開けていられないほどだが。見た目は長身痩躯のように見える。しかし、磨き抜かれた黄金の甲冑を纏った姿は、堂々たる肉体でなければ装備出来ないだろう──そして、その凄まじい存在感と威容に僕は圧倒されていた。


 「問おう。貴様がリリーゼを復活させた、ピーター・ペンドラゴンか?」


 燃え上がる炎のように逆立った金髪と、端正というよりかは妖しい色気を持つ艶やかな美貌の男。


 パッと見た時の年齢は、二十代後半の男。

 ダエージュは四十代ほどに見えるが──グドルーもダエージュも実年齢は解らない。


 そもそも、これほどの威圧と威厳を、二十代後半の男が持てるわけがない。


 さらに睨まれたら萎縮してしまいそうな、真紅の双眸は鮮血のようである。さらに、真っ赤な瞳孔の中には黒い瞳孔もあり、その黒い瞳孔は縦に伸び、まるで蛇を連想させた。


 「そうだけど……。お前は?」


 グドルーだと知ってはいるが、僕は問いかけた。


 「俺の名は四凶の一人、深淵王グドルーだ。小僧よ、このグドルーが褒めるのは、山ほどの金銀財宝よりも価値があるものだと先に言っておく。ピーターよ。リリーゼを復活させたこと、褒めて遣わす」


 その神秘的なまでの輝きを放つグドルーから、褒められた……。


 ダエージュとは、また違った、その背丈を遥かに超えた存在感。

 これが四凶のグドルーか。


 「それで、あのデカブツはまだ来ておらんのか?」


 「デカブツ?」


 「ダエージュのことだ。俺は奴に呼ばれて、ここまで来たのだ」


 いや、来るのは構わないけど、前もって言ってくれよ。


 しかし、星創級のさらに上位の存在の星壊級か。


 その時、耳を聾するするほどの、大声とともにダエージュが現れた。


 いつものように、ペガサスに跨っているが、右手にワインのオーク樽を携えている。


 巨人王のダエージュが持ってきたワインの樽は、小さな城以上の大きさだ。


 「お前たち! 遅れて悪かった! そして今日は、三人揃ったのだ! 酒宴をしようではないか!」


 突然のダエージュの提案に、僕もグドルーも呆れてしまった。


 「おい坊主! 余が入れる大きな広場ぐらいあるのだろ?」


 ダエージュの質問に僕は答えた。


 「まあ、あるけど。教皇宮殿の中庭かな」


 そう、教皇宮殿の中庭なら、六怪のドラゴン全てが集まっても、まだ余裕がある巨大な中庭だ。あそこなら、ダエージュでも入れるだろう。


 と言うか、朝から酒宴って……。まあ別にダエージュとは盟友だし、文句はないけど。


 「では決まりだ! 坊主! 教皇宮殿の中庭まで案内しろ!」


 僕は言われるままに、朝っぱらから、教皇宮殿の中庭に四凶であるダエージュとグドルーを招いた。


 ダエージュはペガサスに跨ったまま、ゆっくりと中庭に降り、何とか中庭を破壊される心配は消えたが……ペガサスから降りる時に、ワインの樽を携えて降りたので、重量オーバーで中庭の石畳が潰れダエージュの足跡が残ってしまった。


 はぁ……なんだかんだで結局、破壊されてしまった。後で、石畳を平らにしなくては。グドルーは地上に降りる姿も優雅に見える。


 それはそうと、なぜ急にダエージュは、酒宴などをしようと思ったのだろう。


 「ほう。これは中々広い中庭だな。ここでなら、ゆっくり話しもできる」


 そう言って、ダエージュが岩より硬いゲンコツで、ワインが入った樽の蓋を叩き割り、中庭全体はワインの奥深く気品がある、芳醇な香りが揺らめいていた。


 ゆっくり話しねぇ……今はそんな場合じゃないんだけど。


 まあ、四凶の二人を無下に扱うことも出来ないし、ダエージュは僕の盟友だ。


 仕方ない。今日だけ、酒宴に付き合ってやるか。

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