第108話 冥界の主と、異形の魔神


 この気配は……聖なる属性と、決して近づいてはいけない、禍々しい気配を感じる。と言うか、第二階層に降りた瞬間から、危険な感じがしたんだよな。


 「おい青年よ! 訊きたいことがある!」


 ん? あの六枚の翼で飛ぶ、純白のドレスを纏った光輝を放つ、美しい女性は……僕が探してたセラフィムか?


 「青年よ。マディーン殿とアレキサンダー殿に、出会わなかったか?」


 「会ったよ。そんで仲間になってもらった。所で僕も質問なんだけど、お前はもしかして、セラフィムか?」


 「いかにも、私の名はセラフィムだが……ん? この溢れる聖属性は、まさか青年よ。あの両者から加護を授かったのか?」


 ここは、セラフィムの問いに素直に答えておこう。いきなり攻撃もして来なかったし。それと、仲間になってくれるかも、訊いておかねば。


 「そうだよ。戦って僕の力を認めてくれて、仲間になってくれた時に加護が欲しいって言ったらくれたんだ。それで……もし良かったら、セラフィムにも仲間になって欲しいんだ」


 「仲間か……あの両者から認められし青年よ。お前の力は理解した。が、なにゆえ仲間を欲する?」


 「実は、これから大きな戦争が始まりそうなんだ。だから頼りになる仲間を集めようと思ってるんだけど……ダメ?」


 セラフィムは熟考してから答えた。


 「戦争か……天使として、人間の争いに介入する事は前代未聞ではあるが、あの両者が仲間になると言う事は、お前は戦争を利用し、世界を乱す者では無いと思える……。よかろう! お前を信用し仲間になってもいいぞ」


 やったぞ! セラフィムが仲間になれば、攻撃と回復の両方を頼める。

 攻撃に特化した我が国は、兵士たちの負傷を癒す者がフェニックスだけだったから、かなり助かる。


 「じゃあ頼む! 僕の仲間になってくれ!」


 「良かろう。して、お前が力を示し仲間にした、マディーン殿とアレキサンダー殿はどこだ?」


 「それなら、このダンジョンから出た所にいるよ。それで、お願いがあるんだけど。セラフィムって加護を授ける事ってできる?」


 「出来るが──青年よ。私の加護が欲しいのか?」


 「欲しい!」


 またもや即答する僕。だって、加護を授けてもらわないと、ステータスが上がらないんだもん。


 「では、青年。お前の名前を教えよ」


 まただ。加護を授ける時って、名前を言わないと授けられないルールでもあるのか? まあいいや。


 「僕の名前は、ピーター・ペンドラゴンだ」


 その言葉を聞くと、セラフィムは驚いた表情をしている。

 一体どうしたのだろう。


 「その名。聞いたことがある。ピーターと言ったな? お前はもしや、この世界で最も偉大なドラゴンを束ねる、テレサヘイズの教皇か?」


 え? ドラゴンって、世界で最も偉大なの?

 いつも食い倒れてる、エルを見てるから、偉大には思えないが……。


 「まあ、束ねてると言うか、皆は僕の大事な仲間だよ。それと、確かにテレサヘイズの教皇でもある」


 「そうか。やはり、偉大なるドラゴンを束ねる教皇であったか。あの両者が仲間になるのも納得できる。よろしい。では、ピーター・ペンドラゴンに天使の加護を授ける」


 【伝えます。個体名ピーター・ペンドラゴンは、個体名セラフィムからアルティメットスキル、天使之加護を授かりました】


 いよ〜し! これで加護が七つだ!

 てか、今回は楽勝だったな。


 「では、私はダンジョンの外で、マディーン殿とアレキサンダー殿の所へ向かうが、ピーターも一緒に来るのであろう?」


 「いや、僕はまだちょっと用事があるから。先に外で待っててくれ」


 「解った。では私は外で待つとしよう」


 セラフィムが飛び立つのを見送ると、僕は臨戦態勢に入った。


 この第二階層に降りて、すぐに感じた常軌を逸した禍々しいオーラーの正体。きっと僕が探している者だと思うが──二つのオーラーを感じるんだよな。


 とにかく、進むか。


 僕が奥に進むと……二体の魔神が恐ろしいオーラを放ち、佇んでいた。


 漆黒のローブを身に纏った、悪魔よりも恐ろしい顔をした死神。

 こいつは、間違いなく僕が探していた冥界の長であるハーデスだ。

 そしてハーデスの前には、煮えたぎる大釜から緑色の湯気が立ち昇っていた。


 さらに、体全体が桜色の前後に二つの顔を持つ、異形の魔神。

 うーん……どこから見ても見間違える事などない。コイツはテュポーンだ。あらゆる物を呑み込むような、巨大な口に鋭利な刃物を思わせる双眸……。しかも後ろの方の顔は、下アゴが飛び出ている。


 コイツら……仲間にしたいんだけど……言葉が通じるのか?


 試しに、話しかけてみるか。


 「おーい! お前らは、ハーデスとテュポーンだよな?」


 僕が話しかけると、突然テュポーンが超高速で僕に突進してきた。


 このままだと、直撃する!


 「光雷脱兎こうらいだっと!」


 ふぅ……何とか逃れた。


 「ゲハゲハ。人間如きのクセにやるな」


 あっ、喋った。


 「なあ。テュポーン! 僕の仲間になってくれないか?」


 「ゲハゲハ。お前が俺よりも強ければ、考えてやるぞ」


 はぁ……やっぱり、そうなるよな。魔物のルールは、自分よりも強者に従うってのは鉄則みたいだ。


 「解った。じゃあ僕がお前に勝てば、仲間になるって約束しろ」


 「ゲハゲハ。良いだろう。お前は面白いオモチャになりそうだ」


 ついでに、ハーデスにも声を掛けてみるか。


 「おい! 大釜の死神! お前はハーデスだよな?」


 「ああ。そうだが。貴様は人間であろう。冥府の支配者たる私をなぜ知っている?」


 それは……前世でやってたゲームに、お前の姿に似たハーデスがいたから……なんて言っても通じないよな。


 「なんとなくだ! それで、僕の仲間にならないか?」


 「笑止。貴様、よもや冥府の支配者たる私を、倒せるとでも思っているのか?」


 「ああ。多分倒せると思う」


 「では、その力。見せてみよ!」


 まあ、王道だよな。

 力を示して仲間にする。


 だけど、それが難しいんだよ。


 しかもテュポーンとハーデスの二体を同時に相手か……。

 これはかなり苦戦するな。


 でも、コイツらを仲間にすれば強力な戦力になるのは、間違いないぞ。


 相当な長期戦になるかもしれないが、やるしかない。

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